第93話:聞くとイク歌

 

さやかちゃんの肌が汗で光って見え、妙に色っぽい。

今の僕には体で男を誘う、女の魔物のように見えてしまう・・・

そんなさやかちゃんの、ささやくようなお話がゆっくりと流れはじめた。

 

「西洋にはセイレーンやローレライといった、船の男を誘う霊がいるのはご存知ですわよね?

 そういうのは日本にもいたというお話ですわ、これはある漁船が体験したお話なのですが、

 漁師仲間で『絶対近づいてはいけない岩礁』というのが噂になっておりまして、近づけば、

 座礁するのは間違いない、下手をすれば船が沈む、にもかかわらずそうわかっているのに、

 どういう訳か必ず乗り上げる船が出てしまうと。そこは昔から人魚の住む岩場として恐れられていたそうです、

 しかし『今の科学技術でそんな迷信が通用するはずがない』と最新機器を積んだ漁船が構わずに、

 そのあたりで漁をはじめたそうです。いざ近づいてみると確かに不気味な霧や雰囲気はあるものの、

 しっかり操縦さえしていれば事故なんか起こりえない・・・そう思っていた乗組員にある異変が襲ったのです、

 船のエンジン音と波の音しか聞こえないはずのその海で、女性の声が聞こえ始めた・・・

 しかもそれは歌のなですが、流れてきたというよりは、脳に直接流れ込んでくる、音波のような歌声だったそうです」

 

遠くから聞こえてくるでもなく、耳元で囁かれるでもなく、頭の中に直接響いてくる・・・恐ろしい歌声だ。

 

「その綺麗な声を脳に浸み込まれてきた漁師の皆さんは、まるでいやらしい喘ぎ声でも聞かされたかのように、

 みるみるうちに股間が大きくなって、ズボンの、パンツの中ではちきれんばかりに膨らんで、

 脳に響く歌声ですっかりとろけてしまい、身動きできなくなり、白目をむき、よだれを垂らしながら、

 恍惚の表情のまま・・・イッてしまわれた、射精をしてしまったそうです、それでもなお歌声は響き続け、

 何度も何度も連続してイカされ続け、船は操縦不能になり、まるで引き寄せられるように岩礁へ・・・

 その岩礁を見た者は必ずこう言うそうです『誰も見えなかったが、あそこには確かに女がいた』と・・・

 おそらく気配なのか声の出所がそこだとわかるのでしょうか、女の魔物が『聞けばイク歌』を歌いながら、

 男を、漁船を引き寄せて座礁させる・・・そしてあわよくば命を奪い、魂を吸い取ろうとしているのかも・・・

 結局、みなさん無事救助されたものの、ハイテク機器でいっぱいの船はスクラップになってしまったそうで、

 たとえ科学が進んだこの時代であっても、迷信だからといって馬鹿にはできない、というお話ですわ」

 

なるほど・・・迷信にも、今の科学じゃ解明できないものが含まれてる可能性もあるって事か。

 

「きっとイッちゃった漁師の人はー、恥ずかしくてあまり人に話せないだろうねー」

「その岩には神社とか、しめ縄とか結界とかそういうのはなかったのっ?お札とかっ」

「無いそうですが、昔は男の生贄をその岩へ捧げ、翌朝行くと精を出し尽くして廃人になっていたそうですわ」

「あ〜そっちの方のお話をもっと詳しく聞いてみたかったぁ〜、そっちメインでやり直しできない〜?」

「そ、そうは言っても、もう時間が・・・夜がもうすぐ終わっちゃうから、さ」

 

僕は何を焦っているのだろう・・・?

 

『消しましょう』

 

かなり短くなった蝋燭を引き抜いて、

そのまま水入りバケツの中へ・・・ジュウ、という暇もなかった。

これで部屋がまた暗く、と言いたいけどさすがに外の明るさが・・・急ごう。

 

もどる めくる