〜猥談百物語〜

 

「うわ、すっごい埃臭い・・・」

 

ガタガタと木戸を開け、お寺の中へ風を通す・・・

細い山道を1時間以上も歩き、日はすでにかなり傾いている。

山奥の小さな寺、僕は同級生の女の子4人と夏休みを利用してここへやってきたのだ。

 

「ちょっと掃除するねー」

 

長い髪を揺らしながら、畳の上をほうきでせっせと掃くタンプトップ姿の東鷹桃子ちゃん、

委員長タイプで、桃子と書いて『とうこ』と書くがみんなからはモモちゃんと呼ばれている。

お寺の一人娘でお経も一通り唱えられるらしくよく手伝いもしてるみたいだ、この寺もモモちゃんのお寺が、

修行に使う用に建てた特別なお寺らしい、が、年に2度は掃除が必要だとかで今回はそれも兼ねている。

 

「外観は廃墟っぽかったけど中はしっかりしてる感じぃ?」

 

柱を押す長身の南千波ちゃん、ピンクのTシャツからスポーツブラが透けて見える。

苗字にも名前にも『なみ』がついてるからナミナミちゃんとか、僕らの間ではナミちゃんと呼ばれている。

ハンドボール部に1年からレギュラー出場するくらいの子・・・大会が終わって体を休めるための休暇日なのに、

こうして僕らのキャンプに付き合うくらいタフな子だ、山道もすいすい・・・大きな胸がぼよんぼよん揺れてたなぁ・・・

 

「水道は通ってませんが、裏の川から水を汲めばいいですわね」

 

炊事場を物色する西野さやかちゃん、料理が得意な家庭的な子なんだけど、

ちょっとオカルト好きが過ぎているというか、鳩を見かけては『儀式に使ってみたい』とか言い出す子で・・・

冗談で言ったんだろうけど、そういう発想してる時点でちょっと・・・家にはホラーコミックばっかりだったし。

あとパタリロも全巻・・・は関係ないか。見た目は今着てるワンピースがお似合いの、お嬢様っぽい感じなのにな。

 

「電気は通ってないんだよね〜?」

 

そう言いながら奥の部屋で仏様に手を合わせる北原レイちゃん、

高校生なのにいつも小学生と間違えられる低身長に幼い声・・・

水色のキャミソールが汗で濡れ、貧乳のポッチが浮き出てる。

ブラくらいすればいいのに、男が僕1人だからって!男と見られてないのか!?

 

「ええっと、じゃあ僕は・・・」

 

何から手伝おうかな、とあたりを見回す。

木戸も障子も全部開けたし、運ばされた荷物の点検でもするかな・・・

 

「ちょっとー、これおねがーい」

 

モモちゃんが土間の奥から持ってきたのは・・・工事に使うような大きなスコップだ。

 

「これを、どうするの?」

「裏掘ってー、トイレ作ってきてー」

「なるほど、力仕事ね・・・行ってくるよ」

 

結局は荷物運びといい、

僕だから、じゃなく力仕事できる男が1人欲しかっただけか・・・

まさか終わって「ありがとー帰ってー明日朝迎えにきてねー」とか言われたりして・・・

そこまで疎遠な関係じゃないはずだぞ!?4人とも女の友達をちょっと超えるくらいの関係には・・・

と思ってるのは男の方だけ、ていうのはよくありそうだ、まあいいや、与えられた任務は遂行しよう。

 

「・・・・・ここでいいかな?」

 

女の子たちのためにも深めに掘って・・・

でもこれって明日、帰るときには埋めないといけないんだよな?

じゃあ適度な深さで・・・足場も確保しなきゃ・・・まさか死体とか出てこないよな?

 

「不気味な寺だもんなぁ・・・」

 

モモちゃんたちの言ってた計画を実行するには丁度いいお寺だ、

和製ホラー映画のロケにでも使えそうなくらい・・・電源がないから無理かな?

考え事もいいけどしっかり掘らなきゃ、あと1時間もしない内に夕方になっちゃう。

 

「汗が噴き出てきた・・・お風呂なんてないよな・・・まあいいか」

 

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 

「・・・まだやってるぅ?うおっ!死体でも埋める気ぃ?」

「あ!ナミちゃん、もう大丈夫かな」

「いいんじゃなぁい?ほいこれタオルとリュック、あそこで汗流してきてねぇ」

 

示された方向は・・・川だ。

 

「はは、あそこで体を洗えと」

「そそ、私たちも後で入るからぁ、もち後でね、あ・と・でぇ」

「後で・・・だ、誰も一緒に入りたいだなんて!・・・じゃ行ってきます」

 

意地悪そうな顔で見送るナミちゃん、

馬鹿にしてる訳じゃないんだろうけど、

男を弄ぶ性格というか、押さなくていい念を押してくるんだよなぁ特にエッチな事。

 

「まあ、確かにエッチな視線で見たりはするけど、それは男なら誰でも・・・それにいつもって訳じゃ・・・」

 

全裸になって川で汗を流す・・・気持ちいい・・・

そのまま川の水を飲むと、これまた清々しい・・・

でもさすがにこのままおしっこしたらまずいよな?

下流にキャンプ場があったはずだし・・・よし、そろそろ夕方だ、

水遊びしてる場合じゃない、全身を綺麗にしてさっさと戻ろう!

 

「リュックから下着の換えを・・・よし戻ろう」

 

お寺に入るとすでに今回の目的・作戦の準備をしていた。

大量に立てられた蝋燭・・・100本全部僕が運ばされたんだけど。

 

「ちゃんと畳を焦がさないようにー、まだ火はつけちゃだめー」

「高い蝋燭台はこの20本だけぇ?じゃ、真ん中にならべるぅ」

「残りは取り囲むように・・・換気とか問題ないですわよね?一酸化炭素中毒は嫌ですわ」

「あんまり端っこだと障子に燃え移っちゃうかも〜・・・あ〜おかえり〜水浴びど〜だった〜?」

「うん、さっぱりしたよ、それよりお腹が空いちゃって・・・」

 

飯盒炊爨とかも僕がさせられるのかな!?

 

「お食事ならもうすでに・・・はい」

「ありがとう、さやかちゃん・・・っておにぎり!」

「1人5つ計算で持ってまいりましたわ、ちなみに明日朝はこちらを」

「カロリーメイトと・・・カロリーメイトゼリー・・・」

「今夜の目的はキャンプファイアーではなく、あくまで百物語ですから」

 

まあ、仕方ないか・・・ん・・・おにぎり美味しい、これは鮭か。

食べているうちにセッティングが終わったようでモモちゃんが仕切りはじめた。

 

「ちょっと聞いてー、日没が午後6時46分なのねー、日の出が午前4時49分」

「10時間かぁ、百物語を10時間ってぇ、1時間で10物語ぃ?」

「6分で1話の計算ですわね、かなりシビア・・・休憩を挟みたい所ですわ」

「持ち時間1回5分にすれば〜、1時間に10分休める〜、2時間毎なら20分休める〜」

「僕が時間係するよ、日の出までに終わらせればいいんだよね?」

 

一応、夜の定義は『日没から日の出まで』のはずだから。

 

「じゃー川に浸かってくるねー」

「覗きに来てもいいけど来たら学校で毎日覗かれたって言うよっ」

「先にトイレを使わせてもらいますわ」

「水筒とバケツ持っていくね〜、お水汲まなきゃ〜」

 

4人ガヤガヤとタオルや着替えを持って出ていった・・・

百物語、か・・・馬鹿げてるよなー、夜に怖い話を百話すれば、

最後に本物の幽霊が出てくるとかなんとか・・・まあ真に受けてはない、よな?

さやかちゃんは半分信じていそう、というかみんなそういうの好きだから実行するはめに・・・

わざわざ一話毎に蝋燭の火を消すっていう本格的な準備までして。こんなお寺じゃなくてもいいのに。

 

「ん・・・このおにぎりは、中に唐揚げか」

 

自前のお茶をペットボトルから飲む・・・

僕も最初は断ったんだよな、でも、レイちゃんが耳打ちしたあの言葉・・・

 

『来たらいいことがあるかもぉ・・・』

 

あれで妙に興奮しちゃって・・・

誘われてるとしか思えないよ、まあ、

そう勘違いするのを見越して思わせぶりな態度で働かせたりしてくるのは、

女の子がよく使う手だけど、なぜか4人が僕にある種の期待を持って誘ってるような気がして・・・

そりゃあ怖い話をいっぱい持ってはいるけど、そんなに話し方が上手いって訳じゃないし・・・

 

「山奥の寺に女の子4人、そして男が1人、か」

「何を考えてるのかしらぁ?」

「ひっ!さやかちゃん!びっくりしたぁ!」

 

トイレから戻ってきたみたいだ、

そして奥に置いてあるリュックを持ち上げて・・・

彼女だけ荷物まだだったのか、あーびっくりした、いつのまに真後ろに・・・

 

「そうそう、百物語の内容、ご存知かしら?」

「内容?蝋燭を100本立てて話が終わったら1本ずつ・・・」

「そうではなくて、お話のお題がありますの」

「そんなのあるの?ど、どんな?聞いてないけど・・・」

「今、お知らせしますわ・・・今回は『エッチな百物語』ですから、お願いしますわ」

 

ええええええええ、え、え、えっちな!?

 

「なにそれ!?エロ話を、ひゃ、ひゃく!?」

「そうですの、1人20話、いやらしくも恐ろしい物語を・・・」

「なぜそんな縛りが!!」

「そのあたりはモモちゃんが、まあ、おいおい」

「なんてこった・・・20もあったかなぁ・・・う〜ん・・・」

 

僕が考え込んでる間に出て行った、

どうしよう、急に言われてもなぁ・・・

こんなルールがあるならナミちゃんあたりが嬉々として告げそうなんだけどなぁ。

いや、からかってそういう事を言わなかったという事は、これは本気の儀式か何か?

というより、さやかちゃんがたった今、からかったっていう方がありえる・・・う〜ん・・・

 

「とりあえず10個考えて、残り10個は始まってから、聞きながら考えよう」

 

まずは・・・いざとなったらベタな話でもいいよな・・・ええっと・・・・・

 

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 

「・・・ただいま〜」

「はっ!レイちゃんおかえり・・・うおっ!もう夕日があんなに綺麗に」

「山の中だからぁ〜、日が沈むまでもうちょっとあるよ〜」

 

どうやら先に1人だけ上がってきたみたいだ。

 

「ど〜?お話いっぱいある〜?」

「うーん・・・その、あの変なルール・・・本当?」

「変なじゃないよ〜、怖い話には色情霊とか精を吸う妖怪の話とかいっぱいあるよ〜」

「でも、何もその話だけにする事は・・・それに、もうちょっとそのルール、早く教えて欲しかった」

「だって〜、逃げられたら困るし〜・・・色んなお話いっぱい持ってる感じだから〜言わなくても平気かなって〜」

 

逃げられる・・・逆に喜ぶんじゃないか!?

いや待てよ、これが僕が女で彼女達が男だったら・・・確実にヤラレるな、

だからそういう発想になったのだろう、でも女4人が男1人を襲うなんて、そんな心配・・・

あと色んな話を持ってるから言わなくてもいいだろうっていうのは、褒められてるのかな?

それだけ怖い話のボキャブラリーを高く買ってもらえてるとか・・・なら光栄だな、まだ話は8つしか出来てないけど。

 

「終わったら〜、ほんとにいいことあるよ〜」

「それは・・・どんな・・・こと?」

「ただいまー、水も汲んできたよー」

「なんか2人の雰囲気あやしくなぁい?」

「抜け駆けは禁止のはずですわ、さあ、食事にしましょう」

 

他のみんなも帰ってきちゃった・・・抜け駆けって!?

レイちゃん恥ずかしそうに離れちゃったし・・・みんなおにぎりを並べてる、

僕は先に食べちゃったしなぁ、と思ったらデザートなのかドライフルーツを貰った。

 

「ちょっと食べながらでいいから聞いてー、ルールの最終確認、

 蝋燭の火を全部つけたら日没時間と同時にスタート、1人5分以内に1話、

 話はあくまで『猥談の怪談』だから、普通の怪談はいつでもできるからー、

 こういう誰にも邪魔されない所でなら恥ずかしい怪談もできるでしょー?

 ただ単なるエロ怖い話じゃなく怪談だから霊の出てくる話が中心ね、まあ、

 昔話とか女妖怪とかその手のは1人1つか2つならいいかなー、百話もあるからー」

 

そうか、ベタだけど困ったら牡丹灯篭の話を、と思ったけど駄目みたいだ。

 

「絶対やっちゃいけない事ー、集まって怪談話するとたまに空気読まないで落ちを笑い話にしたりー、

 逆に驚かそうと『お前の髪だー!』とか言って髪の毛掴んで来る人いるけどー、そういうのは絶対ナシー」

 

いるよなそういうの・・・確かに前者は白けるし、後者は話で怖がらせるんじゃなく、ただびっくりさせるだけだし。

そういう空気の読めない人を排除するために僕だけが呼ばれたんだろうか?だとするとエロ限定の怖い話っていうのも、

怖い話マニアが集まった時の、通だけが厳選されてする粋な遊びみたいで、ちょっと特別な感じがして面白いかも知れない。

 

「1人20話だからネタにも限界あるかも知れないからー、霊じゃない怖い話も困ったら入れていいよー、

 これも1つか2つねー、もちろん怖い猥談だからー、怪談と同じくらい怖い余韻が残るやつお願いねー」

 

さやかちゃんが眼鏡をかけてメモを見てる。

ナミちゃんもノートを開いた、レイちゃんは無いのかな?と思ったら携帯電話見てる、メールで自分に送ってあるみたいだ。

 

「話が終わったら自分で蝋燭消してねー、休憩は2時間に1度15分、それ以外は部屋から絶対出ちゃ駄目だからー」

「興奮して襲ってくるのもナシだからねぇ」

「念のため火事に備えてそちらに水入りバケツを3つ用意しましたわ」

「懐中電灯も〜、私が持ってるから〜、間違って蝋燭の火が全部消えたらこれで照らして点け直すね〜」

 

こうして『猥談百物語』はスタートしたのだった。

 

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