喫煙所から集めたタバコの吸殻やゴミを持ってゴミ集積所へ・・・

そこにはすでにゴミを置いている最中の山吹撫子さんがいた。

 

「お疲れ様です」

「撫子さんお疲れ」

「放送室のゴミは全て片付きましたから、私はこれで失礼しますね」

 

にっこり微笑んでしゃなりしゃなりと去っていく・・・

体がゾクゾクするような美声に、まさに和風美人といった感じの笑顔、身のこなし。

別に和服や着物を着ている訳じゃなく真面目な、いかにもオフィスレディといった長袖の服だけど、

動きだけで良い所のお嬢様という感じがする、それにとても良い匂い・・・

上品な箱入り娘がそのまま大人になった感じだ、艶々の長い黒髪がよりいっそう撫子という名前にマッチしている。

 

「僕は・・・う、ちょっと汗くさいかも」

 

かといって図書館にシャワーやお風呂なんてものは無い訳だし、

早く終らせて帰ろうかな、でも、もうちょっと地下のあの秘密部屋を整えたい。

 

「電源を確保してミニ冷蔵庫でも・・・いや、いっそノートパソコンでも置こうかな?」

 

玄関ホールへ行くとバイトの人がすでに帰って行く所だ、

ということは残っている利用者も、もういないってことか・・・

時計を見ると午後9時半、丁度、BGMの蛍の光も止み、1階の閲覧室もパチリと灯りが消された。

 

「よし、館長の退館時間、午後10時まであと30分もあるな」

 

1日のまとめは有能な美秋ちゃん、楠瀬美秋28歳が全て書いてくれているはずだ、

本当は僕の仕事なんだけど、やりたいって言うんだからしょうがない、

だから僕はあと30分は見回りや点検くらいしかする事がない、と、いうことで・・・

 

「よし、行くか」

 

僕は小走りに地下資料室へと急ぐ、

いつも寂しい所だが、閉館後となると余計にこう、臓物にきゅうっとくるような・・・

 

「指紋認証をして、パスワードを入力して、と・・・」

 

入ると灯りがついたままだ、

消し忘れたかな?まあ僕しか来ないからいいか。

 

「あ、はしごまでかけたまだだ、何か急いでいたっけ?」

 

次からは気をつけよう、と思いながらデッドスペースの上へあがるはしごを登り、

下を覗くと・・・そこにはソファーの上に寝そべる、三つ編み眼鏡の女性がエロ漫画を読んでいた!

 

「み、みみみみ、美秋さん!?」

「館長、言いたいことは山ほどありますが、まず『さん』はやめてもらえませんか」

「あ、う、うん、ごめん、美秋ちゃん」

 

そうそう、僕より年上だからって、さん付けで呼ぶと嫌がるんだった、

30歳が近いから色々と細かい所で気になるらしい・・・ってそんなこと気にしている場合じゃない!

 

「それより、ど、どうして、こんな所に!?」

「どうしてこんな所にこんないかがわしい部屋があるんでしょうね、本棚で四方を囲んで」

「う、うん、ふ、不思議だね」

 

僕を見上げている眼鏡がきらーんと蛍光灯を反射している。

 

「まあここは指紋認証で出入りしている人をチェックしていますから、調べればすぐでしょう」

「だ、だね、ははは」

「この本と指紋を一致させれば・・・その必要はないですよね?館長」

 

ここは素直に認めよう。

 

「ごめんなさい、ちょっと保管させてもらってるだけだから、部屋の掃除で置き場がなくて、さ」

「それにしてはきっちり並べて収納されていますね、捨てたはずの図書館のソファーまで置いて」

「ほ、ほら、ちょっと遊んでみただけだよ、お願い、このとーり、内緒にしておいて、お願い、ね?」

 

土下座するも本棚の上からじゃ、見くだしてるみたいだ。

 

「とにかくさ、10時には図書館に鍵かけたいから、もう出ようか」

「・・・すぐには無理ですね、ソファーへ飛び降りた時、足をくじいてしまいました」

「え?本当?それで横になってたのか、無茶するなあ」

 

だからはしごが外側なままだったんだ、高さが結構あるのに・・・

 

「館長、タオルを濡らして持ってきてくれませんか?」

「あ、うん、冷やしたほうがいいね、行ってくるよ」

「徐々に痛みが増してきているので、急いでください」

 

タオルは確か給湯室にあったはず!

綺麗なバケツがあったら水も入れてきたほうがいいかな?

でも本棚の上にあげて降ろすのが大変そうだ・・・とにかく急ごう。

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