2003年01月05日
『列車まかせの旅』第8弾


第3部:「三段峡散策記」その2

 ほぼ中間点と思われる大淵の休憩所まで辿り着いた私でしたが、時間が無かったので休憩所の写真
を撮っただけでそのまま通過しました。すでに1時間以上、歩きっパです。

 休憩所を通過して間もなくあった到着所要時間案内看
板です。黒淵←→出合橋間の遊歩道には、この到着所要
時間案内看板が数カ所に設置されています。
 これを見て元気が出るかヘコむかは、その時の足腰の
疲労度によるでしょうな。
【広島県・三段峡】

 案内看板の「バス/タクシーのりば」とは出合橋の事です。看板によると出合橋まであと30分です
が、ここまでの私のペースだと20分程度で踏破出来るはずです。

 おそらく案内看板の所要時間は、若者からお年寄りに至るまでの平均的な歩行速度を元に算出して
いるのでしょう。

 端から覗けば下は10メートル以上の崖。遊歩道には、
このように、ちょいヤバい箇所がしばしばあります。
 端っこに寄らなければまったく問題はありませんが、
遊歩道上でふざけてジャレ合ったりするのは禁物です。
【広島県・三段峡】
 白色の絶壁と緑の樹木のコントラスト、思わずハッとさせられた
眺めでした。ここの崖は石灰岩質なのでしょうか?
【広島県・三段峡】

 白色の崖を見てから5分ほど歩いたところで、いきなり人工造形物が目に飛び込んで来ました。お
っと、出合橋に着いたのかな?

 いきなり視界が開け、無粋な石積みの護岸と駐車場ら
しきものが見えました。ここが出合橋?
【広島県・三段峡】

 私は車が止まっている付近まで行ってみましたが、そこにはバス停も何もありませんでした。そこ
に止まっている車を見ると、どうも造園か何かの業者の車であり、近くには「この辺に生えているも
のを勝手に採るべからず」みたいな事が書かれた看板が立てられていました。

 そこで遊歩道は大きく左手にカーブして登っていましたが、カーブの手前に立っていた「バス/タ
クシーのりば→」の看板は、真っ直ぐ前方、つまり業者の車が止まっている広場の奥を指し示してい
ました。

 どう見ても遊歩道は左に向かっているのですが・・・、まぁとりあえず案内看板通りに行ってみる
としましょう。

 私は広場を奥へと進んで行きました。すると、前方に舗装された道と駐車場、それに赤いマイクロ
・バスが見えました。ここが出合橋の駐車場だったのです。

 出合橋の駐車場です。ちょうど三段峡駅からの定期マ
イクロ・バスが到着したところでした。この先に続く道
路の右側がずっと駐車場になっています。
 右手に見える屋根の付いた黒くて小さな建物はトイレ
です。
【広島県・三段峡・出合橋】

 ふ〜、やっとこさ出合橋まで辿り着いたか・・・。さて、三段滝はどっちかな? 私は、バスから
降りた観光客の人々に混じって、駐車場の片隅にあった案内図を見て三段滝を探しました。

 2分間程度、案内図を検討しましたが、いまいち判然としません。どうやら川沿いを行けば良さそ
うなのですが・・・。

 上の画像の右手には、ちょうど川が流れていました。たぶん、この上流に三段滝があるのでしょう。
そう判断した私は舗装された道路を先に歩き始めました。

 しかし、30メートルほど歩いたところで後ろを振り返って見ると、先程、到着したバスから降りた
観光客は誰も私についてきていません。ありゃりゃ?

 前方を見ても、舗装された道路上には観光客らしき人影はひとりも見あたりません。どうなってい
るのでしょう?

 私が訝っていると、ハッピを着て駐車場の整理をしていたおっちゃんが声を掛けて来ました。

おっちゃん「どこ行くん?」

私「三段滝に行きたいんですが・・・」

おっちゃん「三段滝じゃったら、あそこの案内板の右にある階段を登るんじゃ」

と、教えてくれました。

 おっちゃんの言う「案内板」とは、さっき私が見ていたヤツの事で、なるほどそのすぐ右手には登
り階段があり、その傍らには「三段滝→」と、デカい文字で書かれた看板が置かれていました。(^^;

 私は赤面しながら、おっちゃんに「すんません」とお礼を言って引き返しました。その「三段滝→」
の看板は、バスで来た人々は降りたらすぐに目に入ったと思いますが、私はバスとは反対方向(つま
り看板の背面側)から登って来たため、うっかり見落としてしまったのです。

 時間がありません、先を急ぎましょう。急な階段を登って行くと、先ほどバスから降りた人々が遊
歩道上を点々と歩いていました。

 鑑賞を終えて降りてくる人々もけっこういましたが、ここの歩道も幅は1メートル足らずなので、
行き違いには体をかわさなければなりません。

 見ると、かなり歳を召したおばあさん同士が前方ですれ違う際に会話を交わしていました。

登りのおばあさん「(滝を)見てこられたんですか?」

降りのおばあさん「はい〜、わたしゃ今年で八十なんですが、しんどかったですぅ」

登りのおばあさん「八十! お元気ですねぇ。ここから(滝まで)かなりあるんですかぁ?」

降りのおばあさん「かなりありますよ。がんばって下さいねぇ」

この降りのおばあさんの「かなりあります」が誇張ではなかった事を、この後、私は思い知る事にな
りました。

 この頃には、私の脚は約1時間半ぶっ通しの行軍に悲鳴を上げ初めていましたが、立ち止まって休
んでいるヒマはありません。私はペースを落とさずに歩き続け、数組の家族連れを追い抜きました。

 5〜6分も歩いた所にあった開けた場所には「茶屋」がありました。そこでは建物の中や外で大勢
の人々が休憩しており、店の中の座席は、ほぼ埋まっている様子でした。「茶屋」の店先ではワゴン
に積まれたお土産が売られています。

 「茶屋」のすぐ先の遊歩道には、白色の大振りな石が敷かれており、その遊歩道をバックに二人連
れの女の子が記念写真を撮っていました。

 この石畳の遊歩道は、見所のひとつなのでしょうか? 私も写そうかとも思いましたが、メディア
の残量が少なくなっていたのでやめました。

 白い石畳のところを通り過ぎてしばらく行くと、遊歩道が二股に分かれているところに出ました。
そこにあった標識を見ると、「左・猿飛と二段滝」、「右・三段滝」となっていました。

 そこには散策の案内看板も立っていて、それに書かれている順路によると、まず左の道を進み、猿
飛、二段滝を観たあと、二段滝から三段滝へ行ける近道を通り、三段滝を観てからここの分岐に戻っ
てくるようになっていました。

 うーむ・・・、ひょっとしてこの順路通りに回らなければならないのだろうか・・・? 標識には二
段滝までは20分、三段滝までは30分と書かれています。

 しかし、私の往路の持ち時間は、もう20分しかありません。順路通りに回るとなると、所要時間の
見当がつかなくなります。ひょっとしたらひんしゅくを買う事になるかも知れませんが、ここは三段
滝へ直行しましょう。

 三段滝へのルートは、のっけから葛折の急な登り坂になっており、疲労が溜まり始めている私の脚
には、かなり堪えました。

 案内看板によると三段滝までの所要時間は30分となっていましたが、これまでの私のペースだと10
分ぐらいは短縮できるはずです。それでもギリギリになりそうでしたが・・・。

 歩き始めて見ると、分岐←→三段滝間の遊歩道はアップ・ダウンの連続であり、これまで歩いて来
た道より苦戦を強いられるハメになりました。

 しかも、行けども行けども滝がありそうな雰囲気にはなって来ません。分岐を出発してから20分が
経ちましたが、未だ三段滝には辿り着けませんでした。こりゃマジで30分掛かるかも・・・。もはや
往路の持ち時間の2時間は過ぎてしまいました。

 私は歩きながら考えました。三段峡駅に着いたあと、10分程度は駅前をウロつきましたし、往路の
遊歩道では、所々で立ち止まって写真を撮ったり、景勝の所ではゆっくり歩いたりもしました。

 それらを差し引くと、正味、往路の踏破に要した時間は1時間半ぐらいでしょうか? そうすると、
あと15分ぐらいは往路に充てられる時間がある事になります。

 問題があるとすれば、すでに悲鳴を上げているこの脚で、復路を往路と同じ時間で歩き通せるとは
思えない事です。

 しかし、ここまで来て諦めたのでは、これまでの1時間半の苦労が無駄になってしまいます。ここ
は意地でも三段滝を見て帰ろうと心に決めました。まぁ、列車に乗り遅れても、ほんの2時間ばか
し駅で待ちゃあいいんです。

 それから約10分後、ようやく三段滝に到着しました。時計を見ると、例の分岐からここまで、きっ
ちり30分掛かっていました。私の歩くペースが落ちているのでしょうか?

 ま、それはさておき、三段滝の前には、滝を正面から観るためのテラスみたいなものが設置されて
いました。

 三段峡の「五大壮観」のひとつ、三段滝です。どうです、なかな
か趣のある滝でしょう? 三段峡駅から、1時間40分も歩いて来た
値打ちがあったと言うものです。
 ちなみに、三段峡駅から出合橋までバス移動を利用すれば、歩く
時間は40分程度で済みます。
【広島県・三段峡】
 三段滝正面の "テラス" に立てられていた三段滝の案
内看板です。
【広島県・三段峡】

 私が "テラス" に到着した時には、シアン色のカッパを来た男性がひとりだけいました。男性は本
格的な一眼レフ・カメラに三脚、ジェラルミン製のカメラ・バッグを装備しており、写真家もしくは
風景写真が趣味の方と見受けられました。

 私が滝の写真を撮ろうとしていた時には、男性は装備を片づけ終えて道を引き返し始めていました
が、装備を担いでのここまでの歩行がよほど堪えたのか、足取りが重そうでした。

 滝と案内看板の写真を取り終えた頃には、雨が降り始めていました。くそっ! まだこっから1時
間半は歩かにゃならんと言うのに・・・。

 "テラス" から左手を見ると、まだその先へと遊歩道が続いていました。あれが三ツ滝から聖湖へ
と通じているのでしょうが、ここからは、まだ1時間近く掛かるはずです。

 現在の脚の疲労度から勘案すると、例え時間的に余裕があったとしても、三ツ滝まで踏破するのは
無理かも知れません。もし行くならば、もっと脚を鍛えて出直さないと・・・。

 さてと引き返しましょう。もっと三段滝をじっくり眺めていたかったのですが、時間の余裕があり
ません。結局、"テラス" にいた時間は2分足らずだったと思います。

 復路は、脇目もふらずに急がねばなりません。私は、すぐに例のカメラマンを追い抜き、ついさっ
き往路で追い抜いたばかりの家族連れと次々にすれ違いながら先を急ぎました。

 またもアップ・ダウンに苦労しつつ、30分近く掛かって分岐のところまで戻り、止まる事なく石畳
と「茶屋」を通過しました。

 その先で道が分かれているところがありました。左に行けば、出合橋のバス停と駐車場がある所に
戻りますが、右の道は、どうやら往路で見た造園業者の車が止まっていた所へ直接出られそうです。
私は、バス停方面へと続く人の流れから離れ、ひとり右の道を降りて行きました。

 坂を降り切ると、予想通り造園業者の車が止まっている広場の所へ出ました。私はそこを通過し、
三段峡駅方面への遊歩道へ進みました。

 出合橋から歩き出して間もなく、前方に、パーカーを羽織った二人連れが歩いて行くのが見えまし
た。どうやら二人とも女性のようですが、歩くペースがなかなか速く(それとも疲労で私の行脚が鈍
っていたのか?)、じりじりとしか距離を縮められません。

 こいつぁうまくありません。こんなひと気が無いところで後ろから見知らぬ男にずっと付いてこら
れたら彼女たちはどう思うでしょう?

 無用な誤解をされる前に、さっさと追い抜いてしまいたいのですが、2時間を超える強行軍で疲労
困憊している私の脚では思うようにペースを上げられません。

 仕方がなかったので、足音を大きくして私が後ろにいる事を彼女たちに知らせ、可能な限りペース
を上げて歩きました。

 「南峰橋」に達する前に何とか彼女たちに追い付きました。私がすぐ後ろまで来た事に気づいた二
人目の女性が、前を歩くもうひとりに道をあけるように声を掛け、二人は立ち止まって脇に避けてく
れました。

 私は「すみません」とひと声かけて横を通り過ぎ、先を急ぎました。パーカーに隠れてよくは分か
りませんでしたが、どうやら二人は、ちゃんとしたハイク用の服装をしているようです。往路も三段
峡駅から歩いて来たのでしょうか? そうなるとかなりの健脚ですな。

 「南峰橋」に到達した頃から、いったん上がっていた雨が再び降り始めました。三段滝を出た時か
らパラパラとは降ってはいたのですが、小雨だったので私は傘を使っていませんでした。

 しかし今度は本格的です。私はカバンから傘を取り出して差し、ついでにダウンのインナーが付い
たジャンパーを取り出して着込みました。気温が下がって少々寒くなっていたのです。

 「脇目も振らずに急ぐ」と言っておきながら、途中で
撮った一枚です。黒色の岩や新緑の木々の中、黄色く紅
葉した木がやたら目立っていた不思議なアングルです。
 私が訪れた時、三段峡の紅葉は、まだ「序の口」程度
であり、赤く色づいた木は少なかったです。
【広島県・三段峡】

 私は先を急ぎましたが脚の疲労は激しく、アップ・ダウン越えするのが非常に辛くなっていました。
しかし、休んでいるヒマはありません。

 出合橋から黒淵に至る中間付近で三段峡駅方面から歩いて来た、五十代とおぼしき夫婦と出会いま
した。すれ違い様に突然、奥さんから話し掛けられました。

奥さん「あとどれぐらいで着けますかね?」

え? え? 何処までの事を聞いているのだろう? 三段滝までの時間でいいのかな?

私「えーと、1時間半から2時間ぐらいですかね」

奥さん「2時間!! そんなに!? バスが出るところまでですよ?」

あー、出合橋の事ね。

私「あぁ、そこなら40分ぐらいですかね」

奥さん「40分ですか・・・。まだバスありますかね?」

私「あると思いますよ」

それで会話は終わりました。どうやら、黒淵を見た後、二段滝、三段滝まで散策で行く事にして歩き
続けて来た様子ですが、雨は降るわ、行けども行けども着かないわで参ってしまったようですな。

 ご夫婦の身なりは、ごく普通の観光地を訪れる時のそれであり、あろう事か傘すら持っていません
でした。三段峡を散策するには、いささか不用意ですな。

 やがて例の黒淵のアップ・ダウンに到達しました。登りがキツかったのは言うまでもありませんが、
この時、私は足先を痛めていたので降りの方がずっと脚に堪えました。

 「黒淵アップ・ダウン」のピークから撮った一枚です。たぶん、
これが黒淵の出口に当たる岩壁なのでしょう。
【広島県・三段峡】

 黒淵を過ぎると、時々、人々とすれ違うようになりました。ただし、この時間から登って来る人達
の多くはハイク用の格好をしておらず、普通の「お出かけ」用の服装をしていました。

 この手の人々は三段峡が第1目的で訪れたのではなく、たぶん他所を観光した後で立ち寄った類な
のでしょうね。これらの人達は、すれ違っても挨拶しては来ませんでした。

 往路でも写真を写した「竜ノ口」ですが、雨に濡れると、また違
った雰囲気に見えました。
【広島県・三段峡】

 竜ノ口の先で若い男女とすれ違いましたが、男性はホストみたいな黒いスーツ姿、女性はボディコ
ンみないな服にヒール履きと言う、何とも場違いな服装をしていました。そんな格好で遊歩道を行く
つもりなんかいな?

 そして必死に歩き通した結果、列車が出る15分ほど前に三段峡駅前に戻って来られました。ふ〜、
やれやれ・・・。

 三段峡駅前に静態保存されているC11型蒸気機関車
です。側面には可部線の存続を願う地元が作った横断幕
が掛けられています。残念ながら、その願いは叶えられ
ませんでしたが・・・。
【広島県・三段峡】

 駅の横にあった公衆トイレで「小」を済ませると、さっそく駅舎に入りました。どうやら列車が着
いたばかりらしく、小さい待合室には5〜6人のハイク姿の人々が集っていました。

 さて、切符はどこで買えばよいのでしょうか? ここには自動券売機はありません。窓口を覗くと、
中に制服を着たJRの職員がいたので「すみません」と声を掛けましたが、中の机で日誌か何かを記
入中で気づいて貰えませんでした。

 今度は少し大きめな声で「すみません!」と声を掛けると、「あ、はいはい」と少し慌てた様子で
こちらに向かって来ました。

 その素振りは、いかにも窓口慣れしていません。三段峡駅には事務所設備も無さそうですし、ここ
に駅員は配置されていないのではないでしょうか? そうなると、この職員は列車の乗務員?

 そんな事を考えつつ広島までの乗車券を求めると、出てきたのは何とも懐かしい大判の軟券切符で
した。

 三段峡駅の窓口で買った広島までの切符です。ペラペ
ラの軟券で、まるで列車の車内で買う乗り越し乗車券の
ような切符です。

 15:05発の列車はホームに停車していましたが、改札にはチェーンが掛けられていたので私は待合
室のベンチに座って改札の開始を待つ事にしました。ローカル線の駅では、発車直前にならないと改
札を行わない駅がままあるのです。

 ふと見ると、外は集中豪雨並の大雨になっていました。待合室にいて、これから三段峡へと向かお
うとしている人々の口からは、「うわー」とか「おいおい」とか言う言葉が聞こえてきました。私も
あと5分、到着が遅かったらこの雨に見舞われたところです。

 発車の5分前になっても一向に改札を始める気配が無いので、席を立って改札前まで行って見ると、
近づいて来る私を見たJR職員がチェーンを開けてくれました。なんやそれ? そのチェーンは何の
意味があるんかいな?

 ホームに出ると4両編成の列車が待っていました。なんか今朝ここまで乗って来た『三段峡ハイキ
ング号』そのものにも見えるのですが・・・。

 列車の編成もこれまた同じで、広島方面に向かって前2両がキハ47系、後ろ2両がキハ40系で
した。車内には、ほとんど乗客がいなかったので、どの車両に乗っても構いませんでしたが、折角な
ので乗車時間がまだ少ないキハ47系車両の方に乗る事にしました。

 時刻表によると、この列車は加計行のはずでしたが、車体横の行先表示は「可部」となっていまし
た。加計から継続運転するのかな?

 車内に入ると乗客は僅か3人しかいませんでした。三段峡ハイカーが帰る時間にはまだ早いからな
のかな? さっそく私は空いているボックス・シートに収まりました。

 席に落ち着くと寒気に襲われました。気温は凍えるほど低くはないし、インナー付のジャンパーだ
って着込んでいるのになぜだろう?

 それから待つこと数分、列車は定刻の15:05に三段峡駅を出発しました。25分後に加計駅に到着。
ここでは10人ほどが乗り込みました。

 加計では20分ほど停車するとの事でした。メモを取ろうと胸ポケットから手帳を取り出して見ると、
何と表紙のビニール・カヴァーがびっしょりと濡れていました。

 慌てて胸ポケットに手を突っ込んで見ると、シャツが湿っているではありませんか! 寒気の原因
はコレだったのです。

 しかし、この気温からして散策で汗をかいたとは思えません。傘を差していたので雨に濡れたから
でもなさそうです。不思議だ・・・。そうなると三段峡の湿気が異常に高かったのでしょうか?

 車内は暖房が掛かっていなかったので私は震えていました。これだけ厚着していて寒いというのも
変な話です。

 ジャンパーを着たままでは湿気が逃げ難くてシャツがなかなか乾きそうにありませんが、ジャンパ
ーを脱げばソッコーで風邪をひきそうです。ここは着たままにして体温で乾くのを待つしかなさそう
です。う〜〜〜、さみぃ・・・。

 停車している列車から外を見ていると、15:35に広島からの2両編成の列車が到着しました。この
列車はここで終点のようです。

 さらに、2両編成のキハ系列車が構内で入れ換えをしているのが見えました。車体横の行先表示を
見ると、加計→三段峡→広島となっていました。

 たぶん、これが17:21に三段峡駅を出る列車になるのでしょう。その時間は、ちょうど三段峡の散
策を終えた人々が降りてくる頃のはずです。

 今や加計駅には、我が列車を含めて3編成8両ものキハ系車両が集い構内は賑わっていましたが、
その反面、乗客はほんの少ししかいませんでした。

 15:48に「加計→三段峡→広島」行の列車が三段峡へ向けて出発し、その3分後に我が列車も加計
駅を後にしました。

 列車は16:48に終点の可部駅3番ホームに到着しました。ここで乗り替えになります。待つ事少々
で行き止まり式の2番ホームに「広」行の各駅停車が到着しました。

 可部駅2番ホームに到着した「広」行・普通列車78
4Mです。この列車は広島まで行った後、列車番号を6
70Mと変え、そのまま呉線の「広」駅まで継続運転し
ます。
 車両は関西でも馴染みの近郊型である103系でした
が、この方面特有の塗装が施されています。
【広島県・可部駅】

 写真を撮ると、私は「広」行の列車に乗り込みました。車内は出発までには、ほぼ満席になり、何
人かの人が立っていました。

 さて、後は帰るだけ・・・、と、思わせておいて(←誰に?(^^;)、実はこの後、もう1本、気に
なる列車に乗る予定にしていました。


第4部:『安芸路ライナー』乗車失敗記(^^;

 もう1本の列車。それは「愛称付き快速」のひとつ『安芸路ライナー』です。同列車は広島を起点
とし、呉線を回って山陽本線の糸崎駅へ至る快速列車です。

 しかし、時刻表を見て「私なりに考えた」同列車のこの予備知識に間違いがあった事を、この時の
私は知る由もありませんでした。

 広島へと向かう可部線の784Mの車内で時刻表を検討した結果、17:37に784Mが広島に到着
した30分後に糸崎行の『安芸路ライナー』5950Mが出る事になっていました。

 単純に広島で降りて30分待って乗り替えても良かったのですが、今乗っている784Mで終点の呉
線「広」駅まで行ってから同駅で乗り替えれば待ち時間は半分の15分になります。

 その時の私は三段峡での4時間近い強行軍で疲れ果てていたし、服が湿っていて凍えてもいました
から待ち時間は少ない方が良いと考え、このまま784M(ただし広島駅からは列車番号670Mに
変更)で「広」まで行く事にしました。

 「広」で『安芸路ライナー』に乗り替えて三原まで行き、そこで新幹線に乗り替えて大阪まで戻る
事にしました。

 広島へと向かう可部線784Mは、途中、七軒茶屋駅と、もう一箇所の駅(駅名忘失)では前3両
しかドアが開かず、「もう一箇所」の駅に停車した時などは、私の乗る4両目は、何と駅の傍らにあ
る踏切の上に止まっていました。

 広島に近づくにつれて784Mの乗客はどんどん増え、横川到着前には通路まで人が立っているほ
どの混み具合となりました。

 横川駅で大量の乗客を降ろした後、784Mは広島駅に到着しました。ここで10分間停車した後、
列車番号が670Mと変わった「広」行は広島駅から出発しました。

 時間は18時前、すでに日はとっぷり暮れており、車窓からの景色は暗くてよく分からず、呉線の沿
線風景を楽しむと言う分けには行きませんでした。こりゃもう寝るしかないでしょう。

 670Mは広島から50分ほどで終点の「広」駅に到着しました。私は精算を済ませていったん改札
から出た後、自動券売機で三原までの切符を買いました。

 「広」を訪れるのはこれが初めてですが、ここに何があるのかはまったく知りません。余り時間も
無かったので、すぐにホームに入りました。

 『安芸路ライナー』が到着する1番ホームで待っていると、対面の「島」にあるホームには、広島
行の103系の列車が止まっているのが見えました。

 ほどなく、列車到着の構内放送が聞こえて来ましたが・・・、「間もなく糸崎行の普通列車が到着
します」でした。あら? 『安芸路ライナー』じゃないの?

 「広」駅1番ホームに到着する糸崎行・普通列車59
50M(115系車両)です。しかし、到着前の構内放
送に『安芸路ライナー』の名前はありませんでした。な
んで?
【広島県・広駅】

 5950Mには結構乗客が乗っていましたが、乗降口横の二人掛けロング・シートが一人分空いて
いたので相席しました。普段ならば席が完全に空くまで立っているところなのですが、今日はそうす
る余裕がありません。(^^;

 暗くて相変わらず車窓からは何も見えませんでしたが、やたらとトンネルに入る回数が増えた事に
気が付きました。

 後から地図を調べて知った事ですが、呉線にはトンネルが多いのもさる事ながら、線路が瀬戸内海
沿岸部を走っていたので、明るければ海を存分に望む事が出来たはずです。

 「広」から先、乗客はどんどんと減って行き、ほどなくボックス・シートを一人で占有する事が出
来ました。呉線の広←→糸崎間は、広島←→広間と比べて列車の運行本数が3分の1以下と激減する
為、いかに同区間の利用率が低いかが伺えるようです。

 さて、ボックス・シートに落ち着いたところで、今乗っている列車が『安芸路ライナー』なのかど
うかを確認する事にしました。

 時刻表によると呉線を走る『安芸路ライナー』は、日に11.5往復が運行されていましたが、そのほ
とんどは広島←→広間の運行であり、三原/糸崎まで運行されるのは2.5往復のみでした。

 今乗っている列車も間違いなく『安芸路ライナー』の1本ではあるのですが、同快速の売りは広島
←→呉間のノン・ストップ運転であり、その為、広島駅では『安芸路ライナー』と案内放送されてい
た列車も、呉から先、各停となった後で停車する「広」駅では「普通列車」とアナウンスされてしま
ったのでしょう。

 ちゅー事は、広島←→呉のノン・ストップ区間を乗らなければ、真の意味で『安芸路ライナー』に
乗ったとは言えないと思います。残念ながら今回は、「愛称付快速」乗車としてはノー・カウントで
す。我ながら、ちと勉強不足でしたな。(^^;(←ここら辺が鉄道マニアとは言えない未熟なところな
んです)

 ともあれ、このまま三原まで行きましょう。途中のいくつかの駅では対面のホームに下り列車が停
車しているのを見掛けましたが、呉線では103系が多く、たまに可部行の105系なども止まって
いました。

 いつの間にか周りの席の乗客はすべていなくなり、暖房の入っていない車内で私は相変わらず震え
ていました。乗客が少ないと車内の温度も上がりません。

 胸ポケットの手帳を取り出して見ると、未だにカヴァーが濡れていました。シャツは一向に乾いて
いない様子です。

 周囲の乗客がいなくなったところで車内の様子をパチ
リ。座席の配置はノーマルの115系そのままでした。
座席の生地は張り替えられているようです。
【呉線『安芸路ライナー』5950M車内】
 座席から前方をパチリ。私が乗っていたのは先頭車だ
ったので、ここの運転台に運転手がいます。
 優先座席の生地が現在のタイプのものに張り替えられ
ているのが分かります。
【呉線『安芸路ライナー』5950M車内】

 三原から3つ手前の忠海駅を出た時には、車内には私を含めて僅か二人しか乗客がいませんでした。
三原は比較的大きな都市なので、三原に近づくにつれて乗客が増えてくるものと予想していたのです
が、これは意外でした。

 忠海を出て間もなく検札がありました。広島→三原間の運賃は、「通常の」経路である山陽本線経
由ならば1280円ですが、遠回りとなる呉線経由だと1620円となります。わざわざ呉線で行く人間は少
ないと思いますが、この検札はいちおうキセル防止の為なのでしょうか?

 広駅の自動券売機で購入した三原までの近距離切符で
す。列車好きがキセルをしちゃいけません。

 そして5950Mは19:59に三原駅に到着しました。私はここで降りますが、5950Mは次の糸
崎駅が終点となります。

 ここからは20:13発の新大阪行『こだま658号』に乗る予定です。私はいったん改札から出て、
まず新幹線の指定席の切符を買いに行きました。

 この時間の新大阪止めの『こだま号』ならば、たぶん自由席でも座れるかと思いますが、疲れ果て
ている脚の事を考えると、念には念をと言う事で指定席にしました。

 自動券売機で買った切符を見ると、窓側席を選んだにも関わらず、なぜかD席になっていました。
はて? D席っつったら二人掛けの通路側じゃなかったっけ?

 私は首をかしげつつ駅から外へ出ました。乗り替えまでの時間的余裕は無かったのですが、夕食を
調達する為です。

 三原駅です。山陽新幹線と山陽本線が通る他、呉線の
起点駅でもあります。駅前には、港町を強調するかのよ
うにヨットみたいな小型船を模した看板が立てられてい
ました。
【広島県・三原駅】

 三原は列車で通過した事は何度もありますが、下車するのはこれが初めてです。駅前道路の反対側
にあったコンビニへ向かうべく道路を渡ると、驚いた事に、そこの歩道には板が敷き詰められていま
した。

 三原駅前の歩道には板が敷き詰められていました。これは帆船か
何かの木造船の甲板をイメージしたものなのでしょうか? なかな
か粋な演出ですな。
【広島県・三原駅】

 コンビニでありきたりの弁当を買うと早々に駅に引き返しました。本当は駅弁が買いたかったので
すが、時間が遅かったのか駅の売店は閉まっていました。

 三原駅の新幹線ホームです。『こだま号』しか停車し
ない駅であり、この時、広大なホームで列車を待ってい
たのは私と若い女性のたった二人でした。
【広島県・三原駅】
 三原駅に到着する新大阪行『こだま658号』です。
歴戦の0系車両6両編成でした。
【広島県・三原駅】

 到着した列車を見ると「窓側D席」の謎が解けました。『こだま658号』は、かつての「ウェス
トひかり」用の車両で編成されていたのです。「ウェストひかり」の売りは「ゆったり座れる4列シ
ート」だったのですから、D席は窓側席となるのです。

 到着した『こだま658号』の乗降口横には「ウェス
トひかり」のマークが・・・。「ひかりレールスター」
との交代により「ウェストひかり」の列車編成は消滅し
ましたが、車両は引き続き使用されていたんですな。
【山陽新幹線『こだま658号』】

 私が乗る車両のドアが開くと4〜5人の乗客が降りてきました。降車が終わるのを待って車内に入
ると、その車両の乗客は何と私ひとりでした。

 なんと新幹線の車両が貸切状態でした。ご覧の通り、
「ウェストひかり」の車内にはシートは4列しかありま
せん。
【山陽新幹線『こだま658号』車内】

 一人きりの車内で、私は気兼ねする事なく思いっきり席を倒してリラックスしました。新幹線でこ
んな贅沢が出来る機会はそうそうありません。

 ありがたい事に『こだま号』の車内は暖かかったので、ようやく私は寒さから解放される事が出来
ました。やれやれ。

 『こだま658号』で終点の新大阪まで行くとなると2時間掛かりますが、岡山で『ひかり号』に
乗り替えても大した違いはないので、私はそのまま乗って行く事にしました。

 後日、この記事を書いている時に気づいたのですが、この『こだま658号』は、かつて旅行記第
2弾[リヴェンジ]で博多から帰る際にも利用した馴染みの列車だったのです。

 列車が福山駅に着くと、我が車両に一人乗って来ましたが、それから先は乗客が増える事もなく定
刻の22:14に『こだま658号』は終点の新大阪駅に到着しました。

 時間も時間なので、この列車の運行もこれで終わりかと思いきや、何とこれからまだ折り返し運転
をするらしく車内清掃が始まりました。

 ともあれ、これで今回の「旅」は終了です。肉体の「疲労困憊度」から行くと、かつての旅行記第
3弾における函館市内散策や、第2弾[リヴェンジ]での博多基地一周→南福岡駅までの徒歩行を上
回り、旅行記史上最高でした。(ともかく脚がイタい・・・(^^;)

 今回の三段峡散策では見所の一部しか見ていませんが、それでも足を運ぶだけの値打ちがある素晴
らしい峡谷である事が分かりました。

 知人の誰かがハイキングをする場所を探していたならば、私は迷わず三段峡を奨めます。何と言っ
ても歩く距離に不足する事はないのですから・・・。

 私もいずれは、「五大壮観」の残る4箇所を観に、また訪れてみたいと思います。まぁその際は、
自動車で行くか、定期マイクロバスのやっかいになるとは思いますが・・・。(^^;

 今回、三段峡を訪れて感じたのは、観光客の数が決して少なくはないと言う事です。にも関わらず
可部線の可部←→三段峡間が廃止に追い込まれてしまったのは、やはり観光客の大半がマイカーで訪
れるようになってしまったからなのでしょう。

 あの観光客の半分でも列車を利用してくれれば廃止にならずに済んだかも知れません。列車の旅が
好きな私としては実に残念な事です。

 これ以上、路線が廃止される事の無いように願いつつ、今回の旅行記を終わりたいと思います。

 『列車まかせの旅』第8弾、おわり。


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