「想い出の本屋5」
その店は古本屋ではない。
れっきとした新刊本屋である。
そこは、わたしの中学時代の通学路であったし、小学校時代は、友人の家の近くと言う事であり、よく立ち読みし、店主に怒られた。
それから20年以上たち、大きな本屋も周りにできたので、少なくても10年以上は立ち寄っていない。
この商売を始めて、約1年たった時、たまたま入った。
人気の最新巻や、雑誌なども置いてあるが、棚の一部の本は背焼けしているものも多く、
明らかに返品を怠っているのが判った。
棚から梶原一騎の「明日へのキックオフ」を見つけた。
レジにいくと、昔と変わらぬ店主が、200円でいいよと言う。
床を見ると石井隆の「天使のはらわた」の3巻が山積みされていた。
これいくらと聞くと、200円だという。5冊買った。
買った翌日、神保町に「天使のはらわた」を持って出かけ、絶版専門店4店に持ち込んだ。
面白いもので、1冊500から800円まで100円刻みで全て違う値段で売れた。
最後のN書店で、事を話すと、1冊500円なら全部引き取るという話しになり、
帰り道、残っていた全ての「天使のはらわた3巻」を買った。1冊150円にまけてくれた。
これを機会に数日置きにその新刊屋に通う様になる。
不思議な事であるが、絶版のデッドストックが行く度に補充されていた。
「ダメおやじの10巻」や「シャカの息子1巻」など1度に10冊購入したりした。
「ドラえもん18巻初版」は売れたらそこで補充した。
これなどは30冊以上置いてあったので、わざわざ在庫を持つ必要はなかった。
一番の獲物は「仙べえ」だった。
この話しは、マニアの間で話題となって、友人から「新刊屋で仙べえを買ったヤツがいるらしい」なんて話しを聞いて、思わず吹き出した。
通い始めてから1年後、店主が「店を閉める事になった。最後の日は好きなだけタダでやる」と切り出してきた。
最終日、勇んで向かった。店に近づくと、本を整理している店主と孫と思われる若い女性がいた。
よくよく見るとその女性は私が学生の頃、バイトしていた塾の教え子だった。
当時、説教をした立場の人間が、弱みを見せる訳にはいかず、
結局、何もゲットしないまま、家に戻った。
 
 


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