第96話:雨の日に来る女

 

一転して密室・暗室のようになった部屋、

せっかく外が明るくなってきたと安堵したのに・・・

逆に何か追い詰められているかのような予感すらする。

そう思うとモモちゃんの姿も何だか不気味なオーラをまとっているかのようだ、

気のせいだと思いたいけど、そうとも思えない、そんなモモちゃんが語りはじめた。

ラストのモモちゃん☆

「ねー、気配、って不思議よねー、まったく何もない所に人がいるように感じる事あるじゃない?

 普通は人の動きの微かな音とか、体温とかで感じ取るんだけどー、そういうのがないのに、

 誰かそこにいる!って気になっちゃったりすることあるよねー、これはそういう話なんだけどー、

 ある男の人が古いアパートに引っ越したんだけどー、たまに部屋の隅に誰かいるような気がするんだってー、

 最初は住み慣れない所だから気のせいだろうと思ってたんだけどー、日に日に気配が強くなってきちゃったりして」

 

確かにどこか1ヵ所が急に気になる事ってあるよな、

あと部屋が真っ暗だったりシャワー浴びてたりすると誰かいそうで怖くなったり・・・

 

「しかも、ただ人がいる感じが強くなるだけじゃなくってー、

 雨の日に特にいるような気がしてー、湿気や気づかない程度の壁のシミ?とも思ったけど、

 それがだんだん『あ、これ女性だ、若い女の気配だ』って認識できるようになったんだってー、

 しかもなんとなく匂いまで感じるようになってー、少しまずいかなーって感じはしたんだけどー、

 実害がないし気のせいだって思い続ければいつかは忘れる、気にならなくなるって自分に思い聞かせたんだってー」

 

匂いかぁ・・・そういえばこの部屋もすっかり女の子の匂いで充満しちゃったなぁ、

それが僕にまとわりついてきている気がしないでもない、そう思うとこの話が身近に感じなくもない。

 

「でねー、そしたら確かに普段は気にならなくなったんだけどー、逆に雨が降ると凄く気になるようになってね、

 夜なんか寝ている周りをうろついているように感じてて、さすがに怖くなってきて、早く消えろ、早く消えろって思って

 布団かぶって寝てたんだけどー、梅雨に入って毎日その気配、女の気配が来るようになって、ついに布団の中にまで!

 気配が入ってくるようになっちゃたんだってー、それで全身が気配で包まれてー、お風呂に入ってるみたいに気持ちよくって、

 ただ気持ちいいだけじゃなく興奮してきちゃって、パンツの中もすっごい元気になっちゃって、でも眠気が襲ってきてそのまま寝ちゃったら、

 朝、おもらししたみたいに精液でべとべとになっちゃってー・・・夢精っていうやつ?夢の中で水の妖精に抱かれる感じー?」

 

確かに夢精ってすっごい気持ちいいって聞いたことがある、

自分の意思じゃなくイカされちゃうようなもんだから。

 

でねー、その夢のように気持ちいい夢精が雨の日の夜は必ず来るようになっちゃってー、

夢の中でもその女性が段々、具体化?具象化?してきちゃったんだってー、雨に濡れた女性というより、

雨が女性の形になったみたいなー、それでー、相手がはっきりすると気持ちよさもはっきりしてきちゃって、

夢の中で抱いてる、抱かれてるのに射精だけは現実だから、ありえない女の幽霊に実際にイカされてるみたいになって、

本当は夢精って何日も溜まらないとできないみたいなんだけどー、雨の日は魔法にかかったみたいに凄く射精しちゃってー」

 

凄いな、ヴァーチャルセックスみたいだ、

本当に霊の仕業じゃなければ、病んでるくらい妄想しないと、とても無理だろう。

 

「射精の量が日に日に強くなる、っていうことはー、同時に快感も日に日に強くなるのねー、

 梅雨だから雨がほぼ毎日きてー、たまに晴れで霊がこないときは1日中勃起しちゃって大変で、

 なんとか自分で出そうとするんだけどー、8時間くらいしてもイケなくって、イッたらイッたで凄くだるくなって、

 こんな状態だから仕事にも支障をきたすようになるし、げっそり痩せはじめて、これはまずい!と思って、

 でも引っ越すにもすぐには無理だし、そこで思い切って雨の夜、抱かれながら叫んだの『もうやめてくて』って、そしたら・・・」

 

お、怒ったか?霊が。

 

「消えちゃったんだって、あっけなく、スーッと・・・その日以来、雨の日でも霊の気配をぱったり感じなくなって、

 数日間は抱いて欲しい禁断症状に苦しんだらしいんだけど、気配が消えたおかげなのとリハビリで風俗に通ったのもあって、

 結構早く楽になったんですって、それですっかり霊のことなんて忘れて生活してて何ヶ月か経ったある雨の夜、

 つきあいはじめた恋人をそのアパートに連れ込んできたんだって、で、夜遅くいい感じになって、昔こういう霊がいたんだーって、

 あんまり本気で話と引かれると思って笑い話みたいな感じで雨の霊について話してたんだけどー、いつもは明るい彼女が、

 それをずっと静かに聴いていて、時折、うなづいたりして、ちょっと不気味だなーと思ったんだけど、話が一通り終わると・・・」

 

モモちゃんがずいっ、と前のめりに僕に近づいてきた!

 

「彼女は静かに、うなるような低い声で『それって、こんな感じ?』って抱きついて押し倒してきたんですって、

 普段は明るくて、とてもそういう事をするタイプじゃないのに突然の豹変に直感したの『入ってる、とり付かれてる』って!

 でもそのとたん、以前に夢の中で雨の霊に犯され続けた記憶がフラッシュバックして、力が抜けちゃって、

 恐怖で逃げたいのに自分の力が出ないのか、彼女の力がありえないのかわからないけど、とにかくまったく逆らえなくて、

 そのまま抱かれたんだけど、彼女の尋常じゃない量の汗から、雨の匂い、あの霊の匂いを感じて、激しく勃起しちゃって、

 何度も何度も、何度も何度も何度もイカされて、十回以上も射精したのに彼女はやめてくれなくって、ついにー・・・」

 

目と鼻の先まで顔を近づけるモモちゃん!

 

「ついにイキながら失神しちゃったんだって、それでも彼女は絶対に離れなくって、朝、雨が上がってようやく正気に戻ったんだってー」

「モモちゃん!な、なにを・・・」

「ねえ、わたしも何かとりついてないー?」

「何か、って」

「とりついてるならー、そういうことされてみたいー?」

 

さ、誘われてる、のか!?

 

「そ、そそ、それで、その男の人は、その後、どう、なったの」

 

スッと顔を引くモモちゃん。

 

「引っ越したー」

「・・・え?それだけ?それで、終わり?」

「うんー、彼女に失神するまで犯された時に、本気で命の危険を感じたんだってー、

 で、彼女も雨の日になったらやたら家に来たがるようになってー、絶対まずいって思って、

 結局、彼女を納得させるために、彼女の家に引っ越したんだけどー、それでも雨の日になると、

 豹変したように激しく抱きついて何度も何度もイカせて、もう完全に霊が入っちゃったねー、

 結婚して生まれた女の子も雨が好きな子になりましたーめでたしめでたしはいおわりー」

 

ふうっ、と素早く火を消して残り4本、よりいっそう部屋が暗くなる・・・

雨の淫魔か、確かウィンディーネとかいう水の精霊がそんな感じだったはず、

別れた後、他の女と結婚すると殺しに来るって・・・まだ女のほうにとりついて終わっただけこっちのがマシか。

 

「わたし上がりねー、はい上がったー」

 

僕の横に来て抱きつくモモちゃん!

 

「ちょ、ちょっとどうしたの」

「出番終わったからあとは一緒に聞こうよー、ねー」

「そんな、すりすりしないで・・・」

 

さっき顔を近づけてきたとき、キスでもされるのかと思った、

いや、逆に僕にして欲しかったのか?そんなの僕からできるはずないよ、

そうだ、きっと部屋が暗いから僕の表情をよく見るために・・・

今もモモちゃんは上目遣いで僕を見つめている、とろんとした表情で・・・

いや、これもきっと、暗い中で、ろうそくの灯りがそういう風に見せてるだけ・・・でも・・・

 

「モモちゃん、そんなに抱きつかないで、手を変な所に入れてこないで・・・」

「えー暗くて怖くなってきちゃったー」

「なにを今更・・・ちゃ、ちゃんと座って聞こう?もう終わりだから、ね」

 

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