地方競馬 連続時代小説〜短距離編〜


■作品9『名将元就』 1997/06/12 札幌・北海道スプリントカップ GV
■作品11『江戸盃』 1997/10/02 大井・東京盃 GU
■作品15『名将妃だか』 1998/06/11 札幌・北海道スプリントカップ GV
■作品16『江戸盃・弐』 1998/09/30 大井・東京盃 GU
■作品17『日の本杯』 1998/11/23 笠松・全日本サラブレッドカップ GV
■作品19『名将妃だか・弐』 1999/06/10 旭川・北海道スプリントカップ GV
■作品20『江戸盃・参』 1999/09/23 大井・東京盃 GU
■作品23『心の印』 2000/06/15 札幌・北海道スプリントカップ GV
■作品24『金桜』 2000/08/16 盛岡・クラスターカップ GV
■作品27『駆け引き』 2001/06/13 札幌・北海道スプリントカップ GV 登録時点
■作品28『続・駆け引き』 2001/06/14 札幌・北海道スプリントカップ GV
■作品30『時代』 2002/06/13 札幌・北海道スプリントカップ GV
■作品31『引退』 2002/07/06(構成上、「中・長距離編」に収録しております)

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■作品9『名将元就』 1997/06/12 札幌・北海道スプリントカップ GV


〜幕府軍 軍議の席〜

(1,メイショウモトナリ)はぁ〜〜(-x-)
 道営藩の短期取り潰しを目論む幕府幕府から派遣されたメイショウモトナリは、軍議の席でため息をつくばかりであった。

(1,ビッグショウリ)ご案じなさいますな。いかに殿が初陣とて、我らがついている限り道営ごときに負ける当家ではござりませぬ。
 幕府から道営討伐軍として派遣された毛利家では、若き当主メイショウモトナリを総大将に、またその右腕として領内きっての武勇を誇るビッグショウリが軍の切り札として参陣している。
 ビッグショウリは、その旗印である「大勝利」の文字から1字をとって、「スグル」と呼ばれていた。

(1,メイショウモトナリ)わしゃ〜のぅ、皆の力を信用せぬわけではないが、藩外からも援軍を受けている敵方の士気の高さが心配なのじゃ。もしも初陣で無様な戦をすれば、我らは全国から侮られることとなる。さすれば皆にも肩身の狭い思いをさせることになるからのぅ。
(1,トシヴォイス)援軍を得ているというても所詮は寄せ集め。ましてや敵の本隊は数合わせのために老体ばかりが集まった弱将軍でございます。我らの敵ではございますまい。
(1,フジノマッケンオー)殿っ。実はそれがしの手の者に、敵方の軍師格オースミダイナーに通じた甲賀者がおりますれば、その者を遣わして戦わずして敵を陥れる策がございます。
(1,メイショウモトナリ)なにっ、それは誠か。やはりフジノを吊れて来て良かった。ではさっそく取りかかってくれ。
(1,フジノマッケンオー)ははっ。

 フジノマッケンオーは、ちぢれた髪をかき上げながらその場を去って行った。
 「フジノ」と呼ばれるこの馬は、モトナリの正室が嫁いで来たときに側近として里から同行した者で、折りあらばこちらの情報を里に伝えようと諜報活動にバッコしていたが、今ではすっかりモトナリに帰心して役に励んでいる。
 モトナリは今回、自らの密偵小三太を国許に置いて来ていたので、まさかこの手の策略を使えるとは思っていなかった。


〜道営軍 軍議の席〜

 一方、迎え撃つ道営側の軍議も活気がなかった。

 藩主代行のヤマノセイコーは短期決戦を嫌って、同日別件の「美しが丘特別試合」の方に早々に参加申し込みをしてしまい、幕府軍との戦に駆り出されたのはサンガイとオースミダイナーの老臣2頭を中心に、ヘンな顔が嫌われて幕府を解雇されたピクトリーマークと、佐賀藩で逃げ回って逐電し道営に来てもまだ逃げ回っているシモンライス、という布陣である。

(1,サンガイ)わしももっと若ければスピード合戦には自信があったのだが。この上は老体にムチ打ってなんとか幕府軍を食い止めるほかあるまい。
(1,ライデンスキー)我らとてただ飾りのために援軍に遣わされたわけではござらん。せめて幕府に一矢でも報いられるよう、お力になりまするぞ。

(1,ビュンビュン)びゅんびゅんびゅんびゅん
 そこへ、元服したばかりの小姓ビュンビュンがもの凄い勢いで飛んで来た。

(1,サンガイ)むむっ。何事か。
(1,ビュンビュン)申し上げます。フジノマッケンオー殿の遣いと申す者がまかり越し、オースミダイナー様にお目通り願っております。
(1,オースミダイナー)なに、わしに?まあよい、通せ。
(1,ビュンビュン)ははっ。

 ビュンビュンに促されて、フジノマッケンオーからの使者が通された。
(1,武豊)一瞥以来、お久しゅうございます。
(1,オースミダイナー)をを、そなたは、、、豊であったな。
(1,武豊)ははっ。オースミダイナー様にはすっかりお元気になられ、聞けば重賞も2つ勝たれたとか。豊め、万感の極みにございます。

 現在フジノマッケンオーの組下に所属している武豊は、かつて幕府に在籍していた当時のオースミダイナーに仕え連戦連勝。コンビを組んで5戦4勝の成績を収めた甲賀者である。いわばツー・カーの仲といってもいい。

(1,オースミダイナー)ほんに懐かしいのぅ。しかしこの戦陣において、ただ世辞を言うために来たのではるまい。用向きを申せ。
(1,武豊)されば、我が主フジノマッケンオーは心の広いお方にて、こたびの戦において道営軍が降参、いや和議に応じるのであれば、お家は安泰、お咎めも一切なし、とのことにござりまする。
(1,サンガイ)なに、お家安泰とな。
(1,ビクトリーマーク)うーむ。これは一考に価する条件でござるな。

 味方の意見が和議に傾こうとしたそのとき、その場にいた若い武士が口を挟んだ。

(1,カガヤキローマン)あいやしばらくっ!それがし貴家の危機を救う援軍として我が殿から遣わされた者なれば、戦わずして負けを認めることなどできませぬ。
(1,サカモトデュラブ)いかにも。そのような仕儀になれば我らは地元の笑いもの。国許に帰っても御館さまに顔向けできませぬ。

(1,ライデンスキー)ご両人とも落ち着かれよ。この場は和議に応じ、将来に向けて立て直すことこそが地方競馬のためなのでござる。
(1,シモンライス)さよう。そなたたちはまだ若い。特にカガヤキローマンどのは幕府軍と相対したことがない故、幕府の怖さがわからぬのじゃ。もっとオープンで経験を積んだ上で出直されてはいかがかな。

(1,カガヤキローマン)おのれ無礼な。地元の藩を逐電するような愛藩心のない輩にそのような侮辱を受けるいわれはござらぬっ!
(1,サカモトデュラブ)臆病風に吹かれた年寄り連中を相手にしても致し方あるまい。さすれば、我らだけでも戦いを挑み、幕府軍を翻弄してご覧にいれましょうぞ。ごめん!


 こうして、戦は開戦された。
 武豊を擁したフジノマッケンオーの策略によって道営軍は骨抜きにされ、わずかに血気にはやる若い援軍2頭が先陣を争って挑んだが、かろうじて入着を果たすにとどまった。
 その2頭も、敵方メイショウモトナリとビッグショウリの前になす術もなく一蹴されて、戦は幕府軍の快勝に終わったのである。


〜その夜 ススキノ〜


(1,メイショウモトナリ)皆々、ようやってくれた。今宵は祝い酒じゃ。心行くまで飲んで歌って踊るがよい。
(1,ビッグショウリ)はっはっは。昼間戦が始まる前の殿とはまるで別馬のようでござるな。だから心配ご無用と申し上げたのでござる。
(1,メイショウモトナリ)それを申すな、スグル。これでわしも自信がついたわい。この勢いで、次はいよいよ宿敵・尼子を討たねばなるまいて(^ー^)

(1,ビッグショウリ)…………………………………………………………………………。
(1,フジノマッケンオー)……………………………………………………………………。
(1,トシヴォイス)……………………………………………………………………………。
(2,ししおどし)コ〜〜ン

(1,メイショウモトナリ)い、いかがいたした。なぜ皆で沈黙しておるのじゃ。
(1,フジノマッケンオー)殿、恐れながら、、、
(1,メイショウモトナリ)なんじゃフジノ、申してみよ。
(1,フジノマッケンオー)尼子が治める島根県はアラブ競馬しか行われておらず、我らが踏み込める領域ではござりませぬ。
(1,メイショウモトナリ)(ガ〜〜ン)な、なんと、そうであったのか。。。

 しかしこのとき、毛利家の領地である広島県だってアラブ競馬しか行われていない、という物語の矛盾に気づく者は誰もいなかった。


第1回北海道スプリントカップ GV  1997/6/12 札幌1000メートル 晴・良 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 単票数
メイショウモトナリ JRA 牡4  54 安田康彦  59.1 レコード  2868
ビッグショウリ JRA 牡7  55 蛯名正義  59.3  8635
カガヤキローマン 大 井 牡5  56 石崎隆之  59.4 1/2  3147
フジノマッケンオー JRA 牡7  55 武  豊  59.5 クビ  3486
サカモトデュラブ 岩 手 牡5  56 菅原 勲  59.8 11/2   665
サンガイ 北海道 牡10  55 村上正和 1.00.0   147
オースミダイナー 北海道 牡10  55 柳澤好美 1.00.0 クビ   862
トシヴォイス JRA 牡7  55 松本達也 1.00.1 クビ  4170
ライデンスキー 笠 松 牡8  55 安藤勝己 1.00.1 アタマ   449
10 シモンライス 北海道 牡7  55 國信 満 1.00.2 3/4   141
11 ビクトリーマーク 北海道 牡8  55 井上俊彦 1.02.0   236


この年初めて創設されたダート1000メートルの統一GV。主役となったメイショウモトナリと、当時の大河ドラマ「毛利元就」に引っ掛けて仕立てたものだが、モトナリのキャラクター設定のほか、毛利家家臣の呼び名、風貌などのキャスティングもドラマのそれに嵌め込んである。地方側は例によって熟齢・高齢馬が大半を占め、その中にあって5歳のカガヤキローマンとサカモトデュラブはいかにも若い。カガヤキローマンは当時まだオープン下のクラスであり、中央馬との手合わせもこれが初めて。両馬はこの後、ダート短距離路線の中心選手として全国を行脚することになり、それに合わせて時代小説もシリーズ化して続いて行く。本作はその序章。

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■作品11『江戸盃』 1997/10/02 大井・東京盃 GU


<前回のあらすじ>

 6月12日、蝦夷の国は桑園で北海道短距離杯GVが行われた。
 これに参戦した道営藩士とその援軍は高齢馬が大半を占め、メイショウモトナリを総大将とする幕府軍は、策士フジノマッケンオーの謀略により、地方連合軍を骨抜きにすることに成功する。
 オースミダイナー以下老武士の寄せ集めにすぎない連合軍は、お家の安泰をはかるため幕府軍の和議勧告を受け入れようとするが、血気にはやるカガヤキローマンとサカモトデュラブは戦わずして降伏することを心よしとせず、年寄連中の制止を振り切って強引に開戦した。
若 い2頭は先陣を切って果敢に挑み、辛うじて掲示板は確保したものの、結局戦はモトナリ以下幕府軍の厚い壁に跳ね返されて惨敗する結果となる。
 ここに、幕府に対して敢然と反旗を翻したカガヤキローマンとサカモトデュラブの、反骨の戦いがはじまったのである。


<本編>

 10月2日、幕府膝元に近い平和島の大井方本陣に、カガヤキローマンを中心とした10頭の顔が並んだ。
 対峙するのは、フジノマッケンオーを総大将とする幕府軍5頭。世にいう江戸盃GUである。

 北海道短距離杯での意気込みと実績を買われ、この戦でカガヤキローマンは連合軍総大将に抜てきされた。
 そのメンバーも、カガヤキローマンの所属する分場から付家老として派遣されたウィナーズステージを除いては、地元軍も援軍もすべて5歳・6歳の若手武将で構成されている。

 そしてもちろん、その中には遠く蝦夷の地でカガヤキローマンの盟友として勲功を挙げたサカモトデュラブの姿もあった。

(1,サカモトデュラブ)お久しゅうござる。いよいよ我らが力で幕府への恨みを晴らすときがやってまいりましたな
(1,カガヤキローマン)いかにも。しかもご覧あれ、この若々しき面々。やはり戦はこうでなくてはなりませぬ
(1,サカモトデュラブ)見れば敵方総大将はかの憎っくきフジノマッケンオー。しかもそれがし、あの後地元のクラスター杯GVにおいて、蝦夷地で負かしたトシヴォイスめにも不覚をとりましてな。恥ずかしながら、その恨みも併せて晴らしに参った次第にござる(・x・;)
(1,カガヤキローマン)承知しておるわな。されば、こたびも先鋒はサカモトどのにお願いいたす所存。
(1,サカモトデュラブ)ありがたきご配慮。きっと期待に応えて見せますぞ(;x;)

 雪辱に燃える2頭を中心に、連合軍は気合い十分。
 カガヤキローマンの号令一下、サカモトデュラブが先頭となって一気に押し出し、遅れてはならぬとカガヤキローマンも続いた。


 そのときである。
 敵方の迫力に圧倒された幕府軍は、こともあろうに総大将フジノマッケンオーが出足でつんのめり、その隣に控えていたユーコーマイケルとデュークウェインまでもがこれに追従して、足並みが乱れた。いや足並みが揃ってしまった。

 こうなると、いかに幕府軍といえども王将に加えて飛車角まで道を失ってしまったようなもの。
 辛うじてユーコーマイケルが立て直し、トシヴォイスも反撃を試みたが、先鋒のサカモトデュラブがこれを組み止めて阻止している間に、総大将のカガヤキローマンが楽々と幕府軍本陣を陥れた。

 北海道短距離杯以来、打倒幕府の反骨心に燃えていたカガヤキローマンとサカモトデュラブが、早々と目的を達してしまった瞬間である。
 おかげでこの後どう展開していいのかわからない(苦笑)


第31回東京盃 GU  1997/10/2 大井1200メートル 雨・良 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差  単票数
カガヤキローマン 大 井 牡5  54 石崎隆之 1.11.8     16739
サカモトデュラブ 岩 手 牡5  54 小林俊彦 1.12.4   766
ユーコーマイケル JRA 牡5  55 水野貴広 1.12.8 15365
トシヴォイス JRA 牡7  55 上村洋行 1.13.0  7021
ドラールクラウン 大 井 牝6  52 堀 千亜樹 1.13.1 1/2   245
リワードタイタン 新 潟 牡6  54 渡邉正治 1.13.2 1/2  3445
デュークウェイン JRA 牡6  55 岡部幸雄 1.13.4 40630
フジノマッケンオー JRA 牡7  58 武  豊 1.13.4 アタマ 22494
アカネタリヤ 大 井 牝6  52 藤江昭徳 1.13.5 1/2   612
10 ウィナーズステージ 大 井 牡9  54 森下 博 1.13.7   319
11 ダンディーハート 大 井 牡6  55 内田博幸 1.13.7 ハナ  3301
12 ニーニャデガルチ JRA 牝5  52 藤田伸二 1.13.7 アタマ  5243
13 サンライフテイオー 大 井 牡5  55 早田秀治 1.15.2  1485
14 ユキノゴールド 金 沢 牝5  52 中川雅之 1.15.9   779
バクシンマーチ 大 井 牡5  54 張田 京 競走除外   24


北海道スプリントカップから4ヶ月後の東京盃で、カガヤキローマンとサカモトデュラブによるワンツーフィニッシュが決まった。カガヤキローマンはD重賞・統一Gを含めてこれが重賞初制覇。サカモトデュラブも遠征競馬に強いところを発揮して、馬連単で36000円の高配当となった。

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■作品15『名将妃だか』 1998/06/11 札幌・北海道スプリントカップ GV


 6月11日、桑園の砂場で行われる北海道短距離杯に、昨年に続いてカガヤキローマンとサカモトデュラブがやって来た。
 他藩からの援軍は、ほかに昨年のNARサラ最優秀4歳馬であるところのトミケンライデンも加わり来藩したが、それに同行したハカタダイオーは、昨年一時帰厩した際の謀反騒動(10『黒幕』)の嫌疑が晴れず、前日になって参戦メンバーから除外されてしまった。


 道営藩の本陣に到着したカガヤキローマンとサカモトデュラブを丁重に出迎えたのは、今年も軍を総括することになったオースミダイナーである。
(1,オースミダイナー)これはこれはご両所様。お早いお着きにござりますな。ささ、まずはこちらで茶などお召し上がりくだされ。

 昨年のこの戦では、幕府軍と和議を結んで保身を図ろうとした古老たちに見切りをつけて、若いカガヤキローマンとサカモトデュラブが先陣を切って強引に開戦し、その結果両馬が掲示板を確保して面目を保っている。
 そのため今回は、英傑である両馬を迎えて機嫌を損ねぬよう、オースミダイナーの腰はあくまでも低い。

(1,カガヤキローマン)これはまた随分と丁重なお出迎えでござるな。さては今年も何やら愚弄の策を練って我らを恥ずかしめようとなされておられるようじゃ。
(1,オースミダイナー)またまたそのようなご冗談を申されて(^ー^)。我らにとって両所様は頼みの綱。聞けば江戸盃でもわんつーふぃにっしゅで幕府軍を蹴散らされたとか。こたびは是非ともカガヤキローマン殿に総大将をお願いせよと、殿から仰せつかっておりまする。

 商人よろしく揉み手をせんばかりのオースミダイナーの態度に、両馬も辟易とした様子である。
 カガヤキローマンは、同じこの場でバカにされ、老いた連中に屈辱を受けた1年前の出来事を思い起こした。

   回想>>(1,シモンライス)特にカガヤキローマン殿は幕府軍と相対したこと
   回想>>がない故、幕府の怖さがわからぬのじゃ。もっとオープンで経験を
   回想>>積んだ上で出直されてはいかがかな。
                                  (@9『名将元就』)

 結果的にこの直後開戦された戦で3着となり、さらにはこの1年間で十分過ぎるほどオープンでの経験も積んでいる。
 サカモトデュラブと共に江戸盃でワンツーフィニッシュを決めたのは、あのときの屈辱と古老たちの情けなさがバネになったともいえよう。


 そんな思いに浸っている両馬の思考を遮るように、再びオースミダイナーが切り出した。

(1,オースミダイナー)実はこちらに、ある姫君をお迎えしております。かつて京都大賞典などを制された今は亡きメイショウエイカン様のご息女にて、ヒダカ様にござります。
(1,メイショウヒダカ)ヒダカにござります。私は強いお方に憧れております。お二方のような殿御に嫁いで名将の妃となることを夢みているのです。

(1,サカモトデュラブ)なんと、イクサバにオナゴを連れ込むとは。貴藩の無節操ぶりには呆れてものが言えませぬな。
(1,メイショウヒダカ)まっ、男らしいお方(*・_・*)ポッ

 メイショウヒダカはサカモトデュラブに一目惚れしてしまった。

(1,メイショウヒダカ)サカモト様、私を共に戦場に連れて行ってくださりませ。
(1,サカモトデュラブ)御免こうむる!そのようなことで戦ができるか。

(1,メイショウヒダカ)そのようなことを申されずに。どうか私に力を貸して共に戦ってくださりませ ( ^。) (*^^) ホッペ ニ チュッ!!
(1,サカモトデュラブ)何をなされる!(○`ε´○)ペッ まったく道営藩にはロクな者がおらぬようじゃな。

 サカモトデュラブが逃げ出すように陣を飛び出し、これが開戦の合図となった。


 メイショウヒダカもサカモトデュラブを追って飛び出すと、誰もこれを止めることができず、必死で逃げるサカモトデュラブにまとわりついた。
(1,メイショウヒダカ)サカモト様のお側を離れませんわ(^.^)-☆Chu!!(^^)-☆Chu!!
(1,サカモトデュラブ)寄って来られるな!邪魔でござる。

 後にはカガヤキローマンとオースミダイナーが続き、幕府軍のビーマイナカヤマも挑みかかろうとしている。

(1,オースミダイナー)サカモト殿、ヒダカ様のことはお任せ申す。
(1,カガヤキローマン)まったくたわけた御仁じゃ。あれではサカモト殿の足手まといではござらぬか。


 と、そのときである。
 サカモトデュラブにくっついて離れないメイショウヒダカに、いつの間にか外から忍び寄ったビーマイナカヤマが襲いかかった。

(1,ビーマイナカヤマ)ぐぇへへへ。そのような連れない男は放っておいてわしと仲良くしようじゃねぇか、姉ちゃん。
(1,メイショウヒダカ)きゃー!助けてー

 隙を見たカガヤキローマンが、騒ぎをよそにサカモトデュラブに追いついた。
(1,カガヤキローマン)サカモト殿、女子が後ろで絡まれているようでござる。
(1,サカモトデュラブ)知ったことではないわ。これで楽になったというものじゃ。

 さらには、内からダイワルベールもやって来て、メイショウヒダカは両脇から襲いかかられた。
(1,ダイワルベール)ぐぇへへへ。
(1,メイショウヒダカ)きゃーー!サカモト様ーー!

(1,カガヤキローマン)また幕府の1頭が女子に絡んで来たようでござるな。
(1,サカモトデュラブ)なんと、幕府方もまた戦をなんと心得ておるのじゃ。これではまともな勝負ができぬではないか。

 と言いながらもサカモトデュラブが後ろを気にしているうち、カガヤキローマンはさっさと先へ行ってしまった。
(1,カガヤキローマン)さればそれがしは先に本陣を頂いて参る。サカモト殿は女子を助けるなり後からついて来るなり好きにされるがよい。


 というわけでカガヤキローマンが幕府本陣を陥れ、サカモトデュラブはビーマイナカヤマとダイワルベールを自分に引き付けておいて2着に残った。
 江戸盃に続いて両者のワンツーフィニッシュである。


〜その夜 新千歳空港〜

 帰路につく搭乗手続きを済ませたサカモトデュラブは落ち着かない様子である。

(1,カガヤキローマン)どうかなされたかな。
(1,サカモトデュラブ)いや、なんでもござらぬ。
(1,カガヤキローマン)さてはあのヒダカとか申す女子が見送りに来ておらぬのを気にしておられると見える(^ー^)

(1,サカモトデュラブ)とんでもござらん!いかに貴殿とそれがしの仲とて冗談が過ぎまするぞ。
(1,カガヤキローマン)これはまた大変な剣幕じゃ。しかし心配には及びますまい。見送りに来ておらずとも、そのうちサカモト殿を追って岩手に転厩して来るやも知れませぬぞ(^ー^)

(1,サカモトデュラブ)それはかなわぬ。そのようなことのないよう、どうか貴殿のお口添えで道営藩にクギを刺しておいてくだされ。
(1,カガヤキローマン)まあよいではないか。ではまた共に戦場に立つ日を楽しみにしておりまするぞ。

(1,サカモトデュラブ)ふむ。ではさらばじゃ。貴殿もお気をつけて帰られよ。
(1,カガヤキローマン)いや、それがしはこのまま牧場に寄って静養するつもりでござる。

(1,サカモトデュラブ)さようか。さればまた今年の江戸盃ででもお会いしたいものじゃ。
(1,カガヤキローマン)うむ。頑張って代表になられよ。
(1,サカモトデュラブ)(;x;)

 そんな会話をしながら、両馬は別れたのであった。


第2回北海道スプリントカップ GV  1998/6/11 札幌1000メートル 晴・良 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 単票数
カガヤキローマン 大 井 牡6  58 石崎隆之  58.6 レコード  5211
サカモトデュラブ 岩 手 牡6  56 菅原 勲  58.8 11/2   280
ビーマイナカヤマ JRA 牡5  56 四位洋文  59.0 3/4  13760
ダイワルベール JRA 牡7  55 蛯名正義  59.0 アタマ  553
メイショウヒダカ 北海道 牝4  52 渋谷裕喜  59.3 11/2   822
オースミダイナー 北海道 牡11  55 藤倉寛幸  59.5   425
シンキャロル 北海道 牡7  55 小野 望  59.5 ハナ   718
ヒットパーク JRA 牡5  56 武士澤友治  59.7  790
トミケンライデン 笠 松 牡5  57 安藤勝己  59.8 3/4   2153
10 スタープログラマー JRA 牡5  56 田中勝春 1.00.4   2700
11 ヤマゲンスマコバ 北海道 牡5  56 米川 昇 1.00.5 1/2   620
ハカタダイオー 笠 松 牡6  56 安藤光彰 競走除外


カガヤキローマンとサカモトデュラブがコンビを組んで1年。東京盃に続くワンツーフィニッシュで、短距離路線の主役としても定着した1戦といえる。しかしここでちょっとした疑問を呈しているのは、カガヤキローマンがサカモトデュラブに対し「頑張って代表になられよ」とハッパをかけているくだりで、典型的な外弁慶であるサカモトデュラブは地元ではほとんど実績を上げられず、従って統一Gを賑わす以前に岩手代表馬になれるかどうかが心配されるところである。一時道営に帰厩していたハカタダイオーは、笠松に復帰しての参戦だったが右前球節捻挫のため直前回避。

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■作品16『江戸盃・弐』 1998/09/30 大井・東京盃 GU


(1,カガヤキローマン)やあやあ待ちかねたぞサカモトどの。ささ、まずは陣内にてご休息をとられよ。
(1,サカモトデュラブ)これはカガヤキどの、お久しゅうござる。わざわざ総大将にお出迎えいただくとは恐縮の極みでござる。

 両馬の再会は、去る北海道短距離杯の日に新千歳空港で別れて以来である。
 昨年の北海道短距離杯で意気投合し若い力でダート短距離路線を戦うことに目覚めたカガヤキローマンとサカモトデュラブは、続く江戸盃でワンツーフィニッシュ。そして今年の北海道短距離杯でも並みいる幕府軍を打ち破って再びワンツーフィニッシュを決めた。

 幕府と地方軍との戦というより時代劇のためのセレモニーと化している短距離ダートグレード競走において、もはや2頭は切っても切れない関係にある。

(1,カガヤキローマン)それにしても貴殿が再び当藩に遠征して来られたのはめでたい。それがしは内心、心配しておったのだ。
(1,サカモトデュラブ)いやいや。いかに地元で成績が悪くとも、他藩に赴けばそれなりの結果を出していることを我が殿はよくご存知なのでござる。

(1,カガヤキローマン)なるほどのう。で、こたびは我が藩において近頃の活躍が目覚ましいサントスなる者と、隣の船橋藩からサプライズパワーなる怠け者の2冠馬を殿よりお預かりいたしておるのじゃ。ひとつ貴殿からも指導のほどお願い申す。
(1,サカモトデュラブ)ふむ。さすがは若い力しか信じぬ貴殿らしきことじゃな。


(1,サプライズパワー)どたどたどた

 そこへ、道営藩で草の修行をし船橋藩に派遣されたサプライズパワーが巨体を揺すりながら飛び込んで来た。
 その役目を忘れ1年間も出仕していなかったため、太りすぎの35キロ増である。
(1,サプライズパワー)ただいま、幕府軍のワシントンカラーが総大将さまにご挨拶申し上げたいとまかりいでましてございます。

 ワシントンカラーは奏者番を務める幕閣の要職にあり、昨年のスプリンターズS3着に次いで今年は高松宮杯2着など、幕府単独のGTで上位入着を果たしている。
 カガヤキローマンの働きによって幕府もダート短距離戦に危機感を抱き、今回は総大将に大物を据えて挑んで来たと見られている。

(1,カガヤキローマン)ほほう。幕府方の総大将どのが自ら挨拶に出向いて参ったとな。ご無礼なきようお通しせよ。
(1,サプライズパワー)ははっ。


 サプライズパワーに案内され、ワシントンカラーが供も連れず単身で現れた。

(1,ワシントンカラー)こたび幕府軍の統括を担当して参ったワシントンカラーでござる。槍を交えるに先立ち、名将と名高いカガヤキローマンどのにご挨拶いたすべく、まかり越した次第。
(1,カガヤキローマン)これはこれは。幕府の総大将どのから直接ご挨拶をいただくとは異例のこと。本来ならばこちらからご挨拶すべきところ、お許しくだされ。
(1,サカモトデュラブ)さすがはGT2着の実績馬じゃ。礼を重んじられ、肝も座っておられる。

(1,ワシントンカラー)いやいや。貴殿らのような実力のある方々と対戦するのは我らにとっても楽しみでござる。それがしも幕府の代表として正々堂々と戦う所存でござ『ガシャッ』!
(1,カガヤキローマン)ああっ。

 喋りながら、いきなりワシントンカラーがスタートを切った。

(1,カガヤキローマン)な、なんという卑怯な奴!
(1,サカモトデュラブ)フライングでござるっ!いかにスピードに自信を持つそれがしとて、こんないかさまスタートに歩調を合わせることなどでき申さん!


 結局、地方・幕府双方から派遣された監察員によってワシントンカラーのスタートは認められず、改めて開戦の火蓋が切って落とされた。

 ワシントンカラーのフライングにいきり立ったサカモトデュラブは例によって遮二無二先頭に立ち、カガヤキローマンは例によってその2番手。
 ワシントンカラー・ファーストアロー・ビーマイナカヤマの幕府軍に、サントス・サプライズパワーの地方後続軍もそれを追ったが、この展開になっては如何な強力軍といえどもサカモト=カガヤキの連携プレーを崩すことはできず、ゴール寸前で出し抜いたカガヤキローマンが連覇を達成した。


〜その夜遅く 新橋あたりの居酒屋にて〜

(1,カガヤキローマン)いやはや、もはや我らがコンビネーションを打ち破る相手はおるまいて。この調子でいつまでもそれがしが勝ち続けて見せますぞ(^ー^)
(1,サカモトデュラブ)(わしはいつまでも脇役なのか)

(1,カガヤキローマン)次はいよいよ幕府主催のレースに殴り込みでござるな。昨年煮え湯を飲まされた根岸ステークスで雪辱を果たしましょうぞ。
(1,サカモトデュラブ)あいや。その儀はしばらく・・・
(1,カガヤキローマン)な、何を申される。そこもとが逃げて後続を抑えてくださればこそ、それがしも安心して2番手から抜け出せるのでござる。
(1,サカモトデュラブ)いやいや。それがしのような田舎者には、幕府膝元の晴れやかな場は似合わぬようで。ご遠慮いたしたく・・・

(1,カガヤキローマン)サカモトどの(;x;)


第32回東京盃 GU  1998/9/30 大井1200メートル 雨・重 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差  単票数
カガヤキローマン 大 井 牡6  55 森下 博 1.11.7     27194
ワシントンカラー JRA 牡5  56 柴田善臣 1.11.8 1/2 39028
ファーストアロー JRA 牡5  55 松本達也 1.11.9 クビ 13714
サカモトデュラブ 岩 手 牡6  54 菅原 勲 1.11.9 クビ  3393
ビーマイナカヤマ JRA 牡5  55 田中勝春 1.12.0 クビ 10794
サプライズパワー 船 橋 牡5  56 石崎隆之 1.12.4 11138
ミナミノシェーバー 大 井 牡6  54 白田日出夫 1.12.9 21/2 1061
サンエムキング JRA 牡7  56 中舘英二 1.13.0 3/4 2146
セントリック 大 井 牡6  55 宮浦正行 1.13.0 クビ   1665
10 エムジーロード 大 井 牡7  53 松浦裕之 1.13.1 クビ   628
11 ノーザンキャップ 大 井 牡7  54 的場文男 1.13.2 3/4  1790
12 マキバソシアル 船 橋 牡8  53 左海誠二 1.13.4 3/4  317
13 サントス 大 井 牡6  55 鈴木啓之 1.13.7 11/2  9316
14 セタノキング JRA 牡8  54 横山典弘 1.14.8   4007


芝のGTで実績を持つワシントンカラーが注目を集めたが、発走前にゲートを飛び出して仕切り直し。でレースはサカモトデュラブがハナに立ち、カガヤキローマンが2番手から抜け出すという、いつものパターンで決着した。東京盃2連覇のカガヤキローマンはこの後、前年6着に敗れているJRA・根岸ステークスへの再挑戦を表明していたが、結局回避することとなる。

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作品17『日の本杯』 1998/11/23 笠松・全日本サラブレッドカップ GV


〜全日本サラブレッドカップ出走登録の日〜

(1,サカモトデュラブ)さあさ、23日は全日本サラブレッドカップでござる。鬼のいぬ間に、今度こそ交流重賞のタイトルを。ライバルになりそうな相手は、と・・・・あ〜〜っ
(1,カガヤキローマン)ど、どうも。

(1,サカモトデュラブ)カガヤキどの、な、何をしてござるっ。
(1,カガヤキローマン)いや、何をって、全日本サラブレッドカップに。
(1,サカモトデュラブ)そこもとは「根岸ステークスで雪辱を」、とか『江戸盃・弐』で申されておったではござらぬかっ。
(1,カガヤキローマン)でも、サカモトどのが出ないならつまらないし。サカモトどのがいないレースに出ても勝てないし・・・。

(1,サカモトデュラブ)そ、そんな。せっかく今度こそひとりで楽しもうと思って登録したのに。
(1,カガヤキローマン)な〜に、そこもととそれがしの仲ではないか。ともにレースを引っ張り、そこもとは先頭を行き、それがしは2番手から抜け出し、あとはいつもの通りでござるよ(^ー^)

(1,サカモトデュラブ)カガヤキどの(;x;)



〜全日本サラブレッドカップ当日〜

 この日、サカモトデュラブは自暴自棄に陥っていた。
 ダートグレード短距離戦におけるカガヤキローマンとの度重なる共同戦線の中で、毎度カガヤキローマンの勝利を演出する自分の立場に疑問を抱きはじめていたからである。

 そこで今までとは目線を変え、美濃の国で行われるこのレースにはるばる遠征し自分ひとりの力を試してみたかったのだが、もはや腐れ縁を断ち切ることができなくなったカガヤキローマンが後を追うように遠征して来た。
 今回のサカモトデュラブは、最初から一匹狼のつもりでやって来たのだから、もとより共同戦線を張るつもりはなかったといってよい。

 地方軍は地元笠松藩のシンプウライデンが全国行脚の経験抱負なところから一応まとめ役として顔も効いていたが、そこはやはり実績に勝るカガヤキローマンが実質的な指揮を執る形となった。
 隣の御三家筆頭尾張藩からは家老のセイエイツートップが派遣されているが、ここでは距離が足りないのでお目付け役に徹している。


(1,カガヤキローマン)ごらんなされ。こたびも幕府はなかなかに腕のたつ連中を送り込んで来ておる。まずはバトルラインとストーンステッパーの米国かぶれに注意をせねばならぬな。それにこのビッグショウリでござるが、こやつは先の北海道スプリントカップにおいて、、
(1,シンプウライデン)あいや、そのお方は今は幕府の者ではござらず、、、
(1,ビッグショウリ)それがし、こたびは高崎藩より参ったのでござるが、皆々様と陣を共にするのは初めてなれば、よろしくお引き回しのほどを。
(1,カガヤキローマン)おお、さようでござったか。ではご活躍を期待いたす。

(2,サカモトデュラブ)(バカバカしい。憎らしき敵であった者にさようなべんちゃらを使って何になるのじゃ)

 ビッグショウリは、カガヤキローマンとサカモトデュラブが意気投合しその後の短距離路線を共に戦うきっかけとなった昨年の北海道スプリントカップにおいて、両馬の鼻端をくじいて2着を奪った元幕府方の武士である。(=9『名将元就』)
 その後、主であるメイショウモトナリの勘気を受けたかしてお役御免となり、浪々の身となって上山藩を経て今は高崎藩に召し抱えられているらしい。


 と、そのときである。

(1,フジノモンスター)暴れ馬だー。みんな逃げろー。

 陣幕の外で警護をしていたお調子者の若侍・フジノモンスターが叫びながら陣中を駆け回った。
 見ると、馬場入場後のバトルラインがスタンド前で暴れ、騎手を振り落としラチに体当たりしながら最後は座り込んでしまっている。

(1,カガヤキローマン)むむっ。あれは幕府方の総大将を務めるバトルラインではないか。なんと無様なことをしやる。

 バトルラインは幕府栗東方のトレセン奉行を務め、昨年の南部杯では若年寄の座をかけて初のG1獲りに挑んだが、策破れて美浦方のタイキシャーロックに6馬身差で大敗し、まんまとその座を横取りされている。(=12『南部杯』)
 その後も目ぼしい功績を挙げられず出世の道を閉ざされているバトルラインも、サカモトデュラブ同様に自暴自棄に陥っているのであろう。

(1,サカモトデュラブ)おお、あれこそ戦を前にした真の武士の姿じゃ。気合いを前面に出す姿も勇ましいことよ(^ー^)
(1,カガヤキローマン)あっ。待たれよサカモトどの。まだ準備が整うておらぬのに。


 バトルラインの気合いに感化されたサカモトデュラブが一散に飛び出すのを、慌ててカガヤキローマンが止めようとしたが、サカモトデュラブはこれに目もくれず弾き飛ばすように振り切ってしまった。
 サカモトデュラブの後にはバトルラインとトーヨーレインボーが続き、カガヤキローマンはストーンステッパーと共に追走する形になって、幕府勢に包囲されてしまっている。

 こうなってはサカモトデュラブの2番手から抜け出す“いつものパターン”など踏襲できるものではなく、カガヤキローマンはバトルラインとストーンステッパーに次ぐ3着に敗れた。
 強引果敢に先頭を駆けたサカモトデュラブは最下位に沈んでいる。



 しかしレース後、サカモトデュラブは結果を悔やむどころか、すがすがしい顔をして敵方である幕府の本陣を訪れた。

(1,サカモトデュラブ)バトルライン様にお目にかかりたいのですが。
(1,バトルライン)むっ。そなたはサカモトデュラブとか申す者じゃな。
(1,サカモトデュラブ)ははっ。実はバトルライン様の並々ならぬ気合いを拝見いたし、戦の何たるかを改めて教えられた次第。どうか弟子にしていただきたく、身分の違いも顧みず参上いたしました。
(1,バトルライン)はっはっは。冗談も大概になさい。そなたのような積極果敢な逃げ馬に対して、わしから教えることなど何もござらぬ。
(1,サカモトデュラブ)何と、それほどまでにそれがしを認めてくだされますか。
(1,バトルライン)うむ。これからも精進なされよ。さすれば苦労が報われることもあろう。

(1,サカモトデュラブ)さようでございましょうか。デュラブめ、そのお言葉、生涯忘れませぬ(;x;)


第9回全日本サラブレッドカップ GV  1998/11/23 笠松1400メートル 曇・良 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差  単票数
バトルライン JRA 牡6  57 藤田伸二 1.26.9     5869
ストーンステッパー JRA 牡6  57 小林徹弥 1.27.1 11/2 2818
カガヤキローマン 大 井 牡6  58 森下 博 1.27.3 3/4 5019
ビッグショウリ 高 崎 牡8  57 水野貴史 1.27.5  1197
シンプウライデン 笠 松 牡5  57 安藤勝己 1.27.8 11/2 2329
キンコーフローラ 名古屋 牝6  54 安部幸夫 1.28.2 96
トーヨーレインボー JRA 牡5  57 松永昌博 1.28.8 2907
イズミホーガン 高 崎 牡5  56 金井正幸 1.29.2 316
セイエイツートップ 笠 松 牡5  56 坂井薫人 1.29.4 191
10 サカモトデュラブ 岩 手 牡6  56 関本浩司 1.29.8 932


JRA根岸ステークスも視野に入れていたカガヤキローマンが全日本サラブレッドカップに。しかし外枠から強引にハナを奪いに行ったサカモトデュラブの煽りを受けて定位置の2番手を確保できず3着敗退。一方で果敢に先頭を奪ったサカモトデュラブは、潔く最下位に沈んで自分のレースを全うした。どちらが明か暗かわからないが両馬の立場を比較する意味の前フリつき。

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■作品19『名将妃だか・弐』 1999/06/10 旭川・北海道スプリントカップ GV

 その日、旭川空港に降り立ったサカモトデュラブは憂鬱だった。
 幕府との短距離決戦である北海道スプリントカップに参戦するのは3年目だが、当地を訪れるのは初めてであり、また、いつも散々自分を行かせておいて最後だけおいしいところを持って行くカガヤキローマンがいないのが、何か解せない。

 サカモトデュラブは、自藩での仕事は今ひとつだが他藩に赴いた際の評判の良さが認められて、今回は与力の同行が許されている。
 その与力であるカツヤマリュウホーが、インフォメーションでレンタカーの手配を終えて戻って来た。

(1,カツヤマリュウホー)サカモトさま。カガヤキローマン殿からの書状が届いておりました。
(1,サカモトデュラブ)ふむ。

 書状を開いて見ると、今回は思うところがあって現地行きを見合わせたこと、それ故いつものコンビが組めなくて残念である旨がしたためられており、そして最後に、『かの姫との再会を機に、しっかりと優勝を決めて縁組みもまとめなされ(^ー^)』と結んであった。
 どうやらカガヤキローマンが参戦を見合わせた「思うところ」とはこのことであるらしく、またサカモトデュラブが憂鬱であるもう1つの理由もこれである。

 カツヤマリュウホーが運転するレンタカーの中で書状を読み終えたサカモトデュラブは、大きな溜め息とともに、

(1,サカモトデュラブ)なんでわざわざこんなところまで来てしまったのだろう。

 とつぶやいた。



〜その夜、上雨紛の戦場〜

 道営藩の本陣に到着したサカモトデュラブに、出迎えはなかった。

 昨年・一昨年とカガヤキローマンとともに同レースに参戦したサカモトデュラブだが、一昨年は「血の気の多い若輩者」として小バカにされ(9『名将元就』)、昨年は一転してオースミダイナーから揉み手擦り手の接待を受けて、カガヤキローマンが総大将に祭り上げられたりしたものである(15『名将妃だか』)。
 しかし噂では、家老のオースミダイナーも近頃は老獪さを増して態度が大きくなり、指導力を失った藩主ヤマノセイコーから実権を奪ったばかりか、政権を伺う若手指導者の動きをも握り潰しているらしい。

 かつて公儀隠密と疑われながらもヤマノセイコーに抜てきされ、その右腕とも頼まれていたオースミダイナーだが、その立場を利用して密かにヤマノセイコーに毒を盛っているのではないか、ともいわれている。


 そんな道営藩の実情を想像しながら陣屋内に入ろうとしたサカモトデュラブに、背中から声がかかった。

(1,ヒットパーク)サカモトどのにお願いがござる。
(1,サカモトデュラブ)何かな。
(1,ヒットパーク)ヒダカどのから手を引いていただきたい。
(1,サカモトデュラブ)うゅ。

 突然の申し出にサカモトデュラブは言葉を失った。

(1,サカモトデュラブ)そなたは確か。
(1,ヒットパーク)ヒットパークでござる。昨年も当レースでお会いしましたが、幕府の無節操さに嫌気が差し、このほど道営藩に召し抱えられた次第で。
(1,サカモトデュラブ)先ほどの口ぶりからすると、道営藩にやって来た訳は別のところにもありそうで…。
(1,ヒットパーク)(*・_・*)ポッ

 ヒットパークは昨年、幕府方の与力として参戦したが、幕府内の馬関係に疲れて痩せ衰えており、戦中にビーマイナカヤマとダイワルベールがメイショウヒダカにナンパを仕掛ける振りして襲いかかったりするのを見て見切りをつけたらしい。
 同時にメイショウヒダカにも惚れたと見て良さそうである。



(1,ヒットパーク)お察しの通り、それがしはヒダカどのに惚れてござる。前走もまんまと2馬身逃げ切られ申した。されどこの気持ちに偽りはござらぬ。そのことをサカモトどのにもわかっていただきたいのでござる。
(1,サカモトデュラブ)待たれよ。手を引くも何も、わしはあのような姫御のことなどこれっぽっちも…

 言いかけたところに、黄色い声がこだました。

(1,メイショウヒダカ)きゃー!サカモトさまーー!!

 昨年、同馬を紹介したオースミダイナーとともに、メイショウヒダカが現れたのである。


(1,オースミダイナー)これはサカモトどの。よう参られましたな。姫も1年間首を長くして待っておられたのですぞ(^ー^)

 オースミダイナーの態度は、やはり昨年と変わって心なしか遠征馬を見下した様子がうかがえる。

(1,メイショウヒダカ)ヒダカは今年もきっとサカモトさまが来てくださると思っておりました。今週はよさこいソーラン祭があるのですよ。レースが終わったら一緒に見に行きましょう。そしてその後はいよいよ祝言を挙げてくださいますね(^^)
(1,サカモトデュラブ)い、いや、それは…。
(1,ヒットパーク)ヒダカどの。サカモトどのは気骨のあるお方ゆえ、見合いに来た訳ではないご様子。先程それがしのことも認めてくださったゆえ…
(1,メイショウヒダカ)またあなたなの。私は男らしいお方が好きなのです。仕事を捨てて女になびいて来るような軟弱な男に興味はございません!
(1,ヒットパーク)軟弱とは聞き捨てならぬ。それがしとてヒダカどのを幸せにしたいと思うからこそ…

(1,メイショウヒダカ)うっとうしいわ。サカモトさま、参りましょう!
(1,サカモトデュラブ)な、何をなさるっ!

 メイショウヒダカはサカモトデュラブの手を握ると、強引に飛び出した。



 サカモトデュラブとの恋の逃避行を企てたメイショウヒダカに、さらに競りかけて来る馬がいた。
 ナンパ師ビーマイナカヤマが連れて来た岡っ引きのリキアイワカタカである。

(1,リキアイワカタカ)おめぇたちを逃がす訳には行かねぇ。ビーマイナカヤマの旦那には世話になってるんでな。
(1,メイショウヒダカ)なんなのあなたはっ。邪魔しないで!

 メイショウヒダカはサカモトデュラブの手をいっそう強く握りしめた。
 無骨者のサカモトデュラブは何がなんだかわからず、レースどころではなかった。

(1,サカモトデュラブ)わしは何のためにこんなところに来たのだ。このような気力の湧かない戦をしていていいのだろうか。


 迷い戸惑うサカモトデュラブの頭に、ひたすら他藩のために戦い続けた戦の数々が走馬燈のように蘇った。

 2年前、年寄り連中の制止を振り切ってカガヤキローマンとともに幕府に立ち向かった若き頃の北海道スプリントカップ。
 1年8ヵ月前、その屈辱をバネにカガヤキローマンとワンツーフィニッシュを決めた東京盃。
 1年前、メイショウヒダカに惚れられ追いかけられた北海道スプリントカップ。
 9ヵ月前、例によってカガヤキローマンに2番手から抜いて行かれるパターンに疑問を抱き始めた東京盃。
 7ヵ月前、出ないと言っていたカガヤキローマンに騙され登録したらひょっこり現れ気勢を殺がれた全日本サラブレッドカップ。

 戦に心血を注ぎながらも苦々しい経験を繰り返した自らの馬生を思い、「このままこの姫御と逃げるのも悪くないかもしれない」などと考えたりもしたが、今ひとつ割り切れないのである。

(1,サカモトデュラブ)(やはりファンの夢を壊してはいけない。わしは硬派のキャラクターを全うするべきじゃ)

 そう心に思ったサカモトデュラブは、そっとメイショウヒダカの手から離れて後方に下がって行った。


 そのときメイショウヒダカはちっとも気づかず、しつこい岡っ引きのリキアイワカタカを追い払うことに夢中で、

(1,メイショウヒダカ)うるさいわねっ。ひとの恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまってちょうだい!

 叫ぶと、メイショウヒダカに蹴られたリキアイワカタカは後ろに飛んで行った。
 そして、

(1,メイショウヒダカ)サカモトさま。邪魔者はいなくなりました。あとはふたりでゴールを目指すだけですわ(*^ー^*)

 そう言って振り向いたとき、自分が手を引いているはずの相手はサカモトデュラブではなく、ビーマイナカヤマだったのである。

(1,ビーマイナカヤマ)ぐぇへへへ。去年はあんなに嫌がってたくせに、やっぱり俺に気があったんじゃねぇか、ねぇちゃん。
(1,メイショウヒダカ)きゃーー!なんなのー!

 メイショウヒダカも昨年のようにウブではなかった。
 握られた手を思いっきり振ると、ビーマイナカヤマはあっという間に3馬身前方に飛ばされてしまったのである。

 そして後ろからヒットパークとオースミダイナーがやって来て、

(1,ヒットパーク)ヒダカどの、ご無事で何より。あとはそれがしがお守りいたしますぞ。
(1,オースミダイナー)うむ。姫を思うその気持ちが気に入った。その方を監察方奉行に取り立ててつかわす。
(1,ヒットパーク)ははっ。ありがたき幸せにございますっ。

 オースミダイナーの独断人事がその場で行われた。
 ヒットパークを自派閥に取り込み、ハセミイホーやシルバースワットら反執行部の面々に対する監視体制を強化する狙いがあるらしい。



 一方メイショウヒダカは、

(1,メイショウヒダカ)サカモトさまはどこに行ったのかしら。でもヒダカはあきらめませんわ。サカモトさまに認めていただけるような強い女になりたい。

 と誓うのであった。


第3回北海道スプリントカップ GV  1999/6/10 旭川1000メートル 晴・良 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 単票数
ビーマイナカヤマ JRA 牡6  56 鹿戸雄一  59.6      12392
メイショウヒダカ 北海道 牝5  54 渋谷裕喜 1.00.2 3996
ヒットパーク 北海道 牡6  56 宮崎光行 1.00.4  1685
オースミダイナー 北海道 牡12  55 藤倉寛幸 1.00.5 1/2  432
ダイワキャンディ JRA 牝5  54 松永幹夫 1.00.6 1/2   4861
リキアイワカタカ JRA 牡6  56 村本善之 1.00.8   4481
ターフクレスト 北海道 牝7  53 櫻井拓章 1.01.1 11/2   370
マツノカラー 高 知 牡7  55 中越豊光 1.01.4 11/2 292
カツヤマリュウホー 岩 手 牡6  56 関本浩司 1.01.9 21/2   209
10 カツイチショウリ 北海道 牡6  56 星野純一 1.02.0 1/2   241
11 コウエイロマン JRA 牝4  52 武  豊 1.02.1 1/2   5965
12 ブラックディード 北海道 牡6  56 井上俊彦 1.02.3 11/2 128
13 チトセノーザン 北海道 牡5  56 國信 満 1.02.7 56
14 サカモトデュラブ 岩 手 牡7  55 菅原 勲 1.03.2 21/2 2161


カガヤキローマンのいない北海道スプリントカップ。今回は初の旭川ナイトレースに舞台を移して施行された。ニフティ上では行数制限の都合から2編に分けて上梓したやや長めの話だが、ここでは意味ないので1つにまとめて。本当はサカモトデュラブとメイショウヒダカのワンツーが決まればハッピーエンド、という筈のストーリー仕立てなのだがそうも行かず。結果はビーマイナカヤマの圧勝に終わったが、道営馬が2〜4着を占める善戦を見せたレース。

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■作品20『江戸盃・参』 1999/09/23 大井・東京盃 GU


 窓外に流れる厩舎群を眺めながら、大井競馬場前でモノレールを降りたサカモトデュラブは、狭い歩道を人の波に押されるように大手門まで辿り着いた。
 前回の北海道スプリントカップに引き続き、今回もカガヤキローマンは戦に参加しないという。

 この城の主であるカガヤキローマンの所在も確認できないまま当地に赴いたサカモトデュラブは、せめて同志が在城であるならご機嫌伺いをしてみたいと思い、城門を守る若い警備の士に話しかけてみた。

(1,サカモトデュラブ)ぶしつけながら、カガヤキどのは御在城かな。
(1,アイメッセンジャー)おのれ、殿の名を気安く呼ぶとは何奴っ!
(1,サカモトデュラブ)いや、それがしは岩手藩士サカモトデュラブと申す者。カガヤキどのがおられるなら是非お取次願いたいのじゃが。
(1,アイメッセンジャー)お主の如き田舎侍が尋ねて来たとて、たとえ殿は御在城でもお会いにはならぬ。

 カガヤキローマンとサカモトデュラブは短距離ダートグレード競走において数々の戦を共にして来た仲だが、今やカガヤキローマンは大井70億石の藩主であり、かたやサカモトデュラブは一介の岩手藩士に過ぎない。
 加えて、我が道を行く大井藩の目は海外に向けられており、相手が岩手藩であろうと幕府であろうと眼中にはないのである。


 諦めかけたサカモトデュラブがその場を立ち去ろうとしたとき、城の奥から1頭の馬が血相を変えて飛び出して来た。
 道営藩江戸家老兼大井藩国家老のコンサートボーイである。

(1,コンサートボーイ)たわけ者め!そのお方に無礼があってはならぬっ!!
(1,アイメッセンジャー)ひぃえっ。ご家老さま(;x;)

(1,コンサートボーイ)サカモトさま。とんだ非礼をお許しくだされ。殿は小林分場に屋敷を構えておられ、あいにく本日は留守にしておりますが、不肖コンサートボーイめがお相手を務めさせていただきます故、城内にておくつろぎくだされ。
(1,サカモトデュラブ)いやいや、御在城ならばカガヤキどのに一言ご挨拶をと思い立ち寄ったまでのこと。おられぬのならこのまま失礼いたす。色々ありましてな、こたびはレースまで一人で過ごしたいのでござる。
(1,コンサートボーイ)さようでございますか。ではご武運をお祈り申し上げます。


 確かに、これまでのサカモトデュラブには色々あった。
 保身に精いっぱいの老武士たちに押さえつけられたり、追っかけ牝馬にペースを乱されたり、幕府のナンパ師に気を散らされたり。そして何より、カガヤキローマンのしたたかな戦運びにすっかり惑わされたりして、自分自身のレースができ ないでいた。
 3ヵ月前の北海道スプリントカップでは、そんな自分にようやく気づき、そしていま精神的ダメージから立ち直ろうとしているのである。

(1,サカモトデュラブ)(わしは自分でレースをつくっているようでいて、実は周りの連中に振り回されていたのじゃ。もはや一切の俗事に関わるまい。カガヤキどのもヒダカどのもいないこのレースで、わしはわしだけの戦をすれば良い。誰がビーマイナカヤマにナンパされようがわしには関わりあいのないことじゃ)

 そんなことを考えながら歩いているうちに、いつの間にか京浜急行立会川の駅までやって来ていた。
 まずは大森のホテルにチェックインして、それからレースまでに城に引き返せば良い。サカモトデュラブは汐の匂いが漂う大井城内の滞在用馬房が苦手であった。



〜そして、江戸盃の開戦〜


 サカモトデュラブは誰に邪魔されることもなく、先頭に立った。

 後方では、いつか見たような光景が繰り返されている。
(1,ビーマイナカヤマ)ぐぇへへへ。ねーちゃん、俺と遊ばねーか(^ー^)
(1,クリオネー)きゃーー(;x;)やめてーー。

 しかし、そのような俗事は今日のサカモトデュラブには関係のないことである。
 ひとり淡々と走り、そして恬淡とゴール板の前を駆け抜けた。

 長年にわたり悩み苦しんだ自分にとって、あまりにもあっけない初重賞制覇となった。
(1,サカモトデュラブ)わしは今まで周りに惑わされるあまり、気ばかり急いていたのじゃな。戦とはこのようにするものであったのだ。

 言いながら、昨年の全日本サラブレッドカップにおける幕府栗東方トレセン奉行バトルラインの言葉を思い返した。
 バトルラインの潔い走りっぷりと勝ち方に心酔したサカモトデュラブが、レース後弟子入りを申し入れた際に返された言葉である。


  回想>>(1,バトルライン)はっはっは。冗談も大概になさい。そなたのような
  回想>>積極果敢な逃げ馬に対してわしから教えることなど何もござらぬ。
  回想>>(中略)これからも精進なされよ。さすれば苦労が報われることもあろう。
                                   (@17『日の本杯』)

(1,サカモトデュラブ)バトルラインさまにもお礼と報告のメールを出さねば。



 感慨に浸っているサカモトデュラブのもとに、コンサートボーイが駆け寄って来た。

(1,コンサートボーイ)おめでとうございます(;x;)サカモトさまの日頃の鍛錬と努力の賜物でございますな。きっと殿も我がことのようにお喜びなされましょう。さっそく殿のもとに早馬を走らせます。
(1,サカモトデュラブ)うむ。カガヤキどのには本当に世話になり申した。よろしくお伝えくだされ。そしてこれからもな(^ー^)
(1,コンサートボーイ)承りました。

 にぎにぎしいことの嫌いなサカモトデュラブは、余計な者たちが群がって来ないうちに、早々とこの場を立ち去り、ホテルでゆっくりと過ごしたい気分である。
 コンサートボーイとの簡単な挨拶を済ませると、静かに背を向けて出口に向かった。
 が、思いだしたように振り向き、最後に一言いったのである。


(1,サカモトデュラブ)もう1つ、カガヤキどのにお伝えくだされ。貴藩の砦と貴殿のタイトルは、確かにそれがしがお預かりいたした、と。


(1,コンサートボーイ)ははっ。お伝えいたします(;x;)

 コンサートボーイは低く頭を垂れたまま、サカモトデュラブの姿が見えなくなっても頭を上げられずにいた。そしてつぶやいたのである。
(1,コンサートボーイ)わしが守るべき砦は、どうしよう……。

 

第33回東京盃 GU  1999/9/23 大井1200メートル 晴・稍重 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差  単票数
サカモトデュラブ 岩 手 牡7  53 阿部英俊 1.12.5     2197
ビコーミニスター JRA 牡6  55 上村洋行 1.12.6 クビ 3944
ストーンステッパー JRA 牡7  55 熊澤重文 1.12.8 3379
インテリパワー 川 崎 牡5  55 張田 京 1.13.3 21/2  12325
ミナミノシェーバー 大 井 牡7  53 石崎隆之 1.13.5 3/4 2926
チアフルマスター JRA 牡7  53 蛯名正義 1.13.5 ハナ 19596
ビーマイナカヤマ JRA 牡6  56 鹿戸雄一 1.13.6 1/2 40434
ネイティヴランナー 大 井 騙6  54 桑島孝春 1.13.6 クビ 627
ウメノテイオー 大 井 牡7  53 鷹見 浩 1.13.6 アタマ 308
10 ラシアンスキー 大 井 牝6  53 藤江昭徳 1.13.8 3/4 3071
11 ビッグファイター 大 井 牡7  53 的場文男 1.14.1 11/2 2934
12 クリオネー 大 井 牝6  52 佐宗応和 1.14.4 11/2 956
13 ヒノデソシアル 金 沢 牝7  51 中川雅之 1.14.4 クビ 1389
14 ドラゴンジェイ 船 橋 牡7  53 佐藤祐樹 1.14.5 1/2 320
15 キングオブケン 船 橋 騙7  53 左海誠二 1.16.5 大差 372


“硬派”サカモトデュラブが悲願の重賞初制覇。しかも統一GUで成し遂げたところが重い。カガヤキローマンの地元大井で、目下2連覇中のカガヤキローマン不在で行われた東京盃のタイトルを、盟友のサカモトデュラブが死守した、という出来すぎの構図である。TCKにとっては、短距離の雄であるカガヤキローマンと東京盃はこれでいいとしても、中・長距離のコンサートボーイは帝王賞や東京大賞典を守れるか、というのがオチの部分。

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■作品23『心の印』 2000/06/15 札幌・北海道スプリントカップ GV


◆北海道スプリントカップ前夜◆


 〜厩舎にて〜

 2年ぶりに現地を訪れたカガヤキローマンを出迎えたのは、やはりオースミダイナーであった。このシリーズでは第1回以来、サカモトデュラブも交えて何かと因縁の多い両者である。
 オースミダイナーの傍らには、ヒットパークとディーエスジャックの姿もある。

(1,カガヤキローマン)やや、名物ご家老のお出ましですな。達者で何より。
(1,オースミダイナー)もうそのような皮肉はおやめくだされ。昨年は姿をお見せにならなかったので、もう助勢してくださらぬのかと心配しておりました。
(1,カガヤキローマン)そういえばヒダカとかいう姫御の姿も見えぬようだが、とうとうサカモトどのと駆け落ちでもなされたかな(^ー^)
(1,オースミダイナー)あいや。サカモトどのがお出でにならぬ故、すっかり塞ぎ込んでおります。トライアルにも出なかった始末で。
(1,ヒットパーク)ご懸念には及びませぬ。ヒダカどのの心はそれがしが開いてご覧にいれまする。

 サカモトデュラブとメイショウヒダカとヒットパークは三角関係である。
 メイショウヒダカはサカモトデュラブにぞっこんだが、一昨年のレースで彼女に惚れ込だヒットパークが幕府を辞して道営藩に転入したものの、昨年はトライアルであっさり逃げ切られてしまった。本番でも彼女を捕らえられず3着に終わっている。
 しかし今年はメイショウヒダカのいないトライアルをヒットパークが勝ち、本番に向けて意気込みも上がっている。昨年、メイショウヒダカに「私は男らしいお方が好きなのです」云々と言われたことが屈辱となっているようである。


(1,カガヤキローマン)そういえば貴藩もいよいよ新しい藩主どのを迎えられたとか。この機会にご挨拶をしたかったのだが、おられますかな。
(1,オースミダイナー)殿は家督相続のご挨拶で江戸に出張しております。
(1,カガヤキローマン)なんと、それでは全く行き違いではござらぬか。よくよく貴藩のお方とは馬が合わぬのかのぅ。
(1,オースミダイナー)いや、そんなことは。ただ、いま我が藩は若い殿を盛り立てようと藩士の士気も上がり、若手を中心に黄金期を迎えつつある手応えを感じております。こたびは、カガヤキどのにもその様子を見定めていただきたく。
(1,カガヤキローマン)ほほう。長い間独裁して来た貴殿の苦労が結実したということですかな?(^ー^)

 道営藩では長年続いたヤマノセイコーとオースミダイナーの体制から、昨年暮れに突如ヤマノセイコーがスズオールマイティに家督を譲った。
 一説には、すっかり落ちぶれてオースミダイナーに実権を握られていたヤマノセイコーが、誰でもいいから適当に後継者を選んだだけ、との噂もあるが、詳しくは21『家督』にて。


(1,カガヤキローマン)ところで、そこな若者はやはり明日のレースに出る...
(1,オースミダイナー)これはそれがしと共に当藩の老職を務めるサンガイどのの甥子でございましてな。当藩の4歳馬の中では、明日出走するマークオブハートやタキノスペシャルとともに3羽烏などと呼ばれておりますが、将来家老職を継がせようかと思い、今は実戦よりも幹部教育に徹しておるところで。
(1,ディーエスジャック)ご挨拶が遅れました。こたびは叔父上の言いつけで、カガヤキ様に満足いただけるよう心を尽くして接待させていただきます。
(1,カガヤキローマン)ほう、それは楽しみな。
(1,ディーエスジャック)まずは稽古のお相手と身の周りのお世話をさせていただくため、選りすぐりの小姓を揃えてございますので、存分にお使いください。

(1,カガヤキローマン)ふむ、小姓な。。。
(1,オースミダイナー)は、何かご不満でも。
(1,カガヤキローマン)小姓よりも、、、
(1,オースミダイナー)はい。
(1,カガヤキローマン)小娘が良いかな。
(1,オースミダイナー)こ、これは気がつきませんで。
(1,カガヤキローマン)せっかく今年はサカモトどのがおられぬのだから(^ー^)
(1,オースミダイナー)これ、カガヤキどのはサカモトどのと違って軟派なお方じゃ。取り急ぎ小娘を見つくろってお世話いたせ。
(1,ディーエスジャック)かしこまりました。

 馬産地藩政がモットーの道営藩では、質の良い小姓や小娘にはこと欠かない。
 さっそく、カーディアンゴットやスイートソウル、リオエワンらが集められた。
 サカモトデュラブがいないのをいいことに、やりたい放題である。


◆北海道スプリントカップ当日◆


 〜装鞍所にて〜

 翌日、装鞍所に現れたカガヤキローマンは顔色が冴えない様子である。
 一方オースミダイナーは、傍らに女子を侍らせビンビンである。

(1,カガヤキローマン)おや、これはまた見目麗しき女子を従えて。。。
(1,オースミダイナー)あ、これはそれがしの侍女でござる。
(1,カガヤキローマン)ほほう、侍女とな( ..)(  ・・)
(1,カオリスマイル)お初にお目にかかります。カオリスマイルにござりまする(^^)
(1,カガヤキローマン)なるほど。ご家老どのもお盛んなことでござるな。サカモトどのがいなければ、本当にやりたい放題なのじゃな。

(1,オースミダイナー)そう言うカガヤキどのも、昨夜はいかがでしたかな。随分とお酒を召し上がられたようでござるが。気に入った小娘がおられたなら、また江戸へ連れて行かれますか。
(1,カガヤキローマン)ふむ、それはまた後で相談するとして、、
(1,オースミダイナー)いかがされましたかな。

(1,カガヤキローマン)年増の異国女が、1頭紛れ込んでおった。。。


(1,オースミダイナー)はて、年増の異国女、でございますか。
(1,カガヤキローマン)その年増に、わしの酒をしこたま飲まれましてな。わしも、それに付き合わされてひどい二日酔いでござる(-_-;
(1,オースミダイナー)それは難儀なことでございましたなぁ(^ー^)ニヤリ
(1,カガヤキローマン)ほれ、あの者でござるよ。


 ちょうど通りかかったのは、尾張藩からの肝入りでやって来ているゴールデンチェリーである。オースミダイナーとの間には、幕府在勤当時の長屋か何かを通じて、いささかのつながりがある、との噂もある。

(1,ゴールデンチェリー)オー、カガヤキノ殿サマ。昨夜ハトッテモ楽シカッタミャー。
(1,カガヤキローマン)それはよろしゅうござったな。もしてかしてそなたも今日は戦に参加されるのかな。
(1,ゴールデンチェリー)モチロンデース。景気ヅケニココデモウ1杯ヤリマショウ。
(1,カガヤキローマン)いや、わしは結構でござるウプ。

 カガヤキローマンはそそくさと去って行った。


(1,オースミダイナー)よくやってくれたな(^ー^)さすがは尾張一の芸者といわれるだけのことはある。
(1,ゴールデンチェリー)ソレハモウ、ゴ家老様ノ頼ミトアラバ、何デモスルデス。
(1,オースミダイナー)今年は我が藩にとって大事な年なのじゃ。せっかく若い者たちが地元交流重賞を連勝しているところ、カガヤキどのには申し訳ないが、この大事な今期初戦を幕府や他藩に渡すわけには行かない。威信にかけてもな。
(1,ゴールデンチェリー)威信ニカケテ小細工ヲ弄スルトハ、イカニモゴ家老様ラシイミャー(^ー^)
(1,オースミダイナー)(;x;)


 〜本馬場にて〜

 硬派サカモトデュラブがいないために様相が変わっているのは、常連馬の素行だけではない。
 今年の北海道スプリントカップには、牝馬や異国産馬がことのほか多く、これもまたサカモトデュラブがいれば忌み嫌うところである。
 幕府に至っては、4頭の枠を牝馬2頭と異国産馬2頭で占めてしまった。


 さて、まずは無難に先陣を切ったオースミダイナーとカガヤキローマンをしゃなりしゃなりと追尾するのはゴールデンチェリーであり、これを胡散臭そうに見ながらストーンステッパーとフラワータテヤマが並んでいる。
 その様子を虎視眈々と伺いながら、一朝事あらば助太刀に出ようというのが、サカモト憎しのヒットパークと三羽烏のマークオブハート、という体勢である。


(1,カガヤキローマン)ご家老どの、後ろにいるのは何じゃ。年増の異国女も気になるが、それと一緒について来るのも年増と異国ばかりではござらぬか(^^;
(1,オースミダイナー)カガヤキどのともあろうお方が、つまらぬことを気になさいますな。ほれほれ、腰がふらついてございますぞ。
(1,カガヤキローマン)飲み過ぎで気分が悪いのじゃ。ゲロを吐きそうでござる。
(1,オースミダイナー)(^ー^)ニヤリ

 カガヤキローマンの脚どりが鈍るのを見て、オースミダイナーが目配せをすると、後ろに控えていたゴールデンチェリーが頷いた。

(1,ゴールデンチェリー)アレアレ、ワタシモ飲ミ過ギテフラフラナノヨー。
(1,ストーンステッパー)ブ、無礼者。何スンネン。
(1,フラワータテヤマ)ぎゃー、痛いやんか、ストステ様。

 ふらついたゴールデンチェリーがストーンステッパーに体当たりを食らわせ、押し出されたストーンステッパーはフラワータテヤマにもぶつかってしまったのである。


(1,オースミダイナー)祝着じゃ。あとはわしに続け!


 号令一下、よろめいていた筈のゴールデンチェリーは突然脚どりが良くなってオースミダイナーの後を追い、空いたスペースからヒットパークが抜け、外からマークオブハートがすっ飛んで来た。

 公儀隠密から成り上がった道営藩家老のオースミダイナーは、13歳にして晴れてG3位に任官され、4歳馬のマークオブハートがこれに追従した。
 体を張った働きが認められたゴールデンチェリーは3着に、昨年の戦で藩の監察方奉行に任命されているヒットパークは4着であった。


 〜ススキノにて〜

(1,オースミダイナー)めでたいめでたい。この戦はな、幕府が我が藩の取り潰しを狙って創設したものなのじゃ。詳しくは3年前の『名将元就』を見るが良い。その戦を逆手にとって藩の建て直しが図れたことに満足しておるぞ。
(1,ヒットパーク)それがしはご家老の派閥について本当に良かったと思いまする。
(1,マークオブハート)未熟者ではございますが、これからもご指導をいただきたく。
(1,カオリスマイル)頼もしいご家老様に仕えることができて、カオリは幸せでございます。

(1,オースミダイナー)ゴールデンチェリーにも何か良い土産を包んでつかわせ。その後のカガヤキどのの様子はどうじゃな。
(1,ディーエスジャック)あまり体調もすぐれぬご様子にて、厩舎にて床に伏せっておられます。明日にはこちらを発たれるとか。
(1,オースミダイナー)ふむ。カガヤキどのに恨みはないが、申し訳ないことをしたな。なんぞ精のつく料理でもてなして、丁重にお送り申せ。
(1,ディーエスジャック)かしこまりました。

(1,オースミダイナー)江戸の殿には、お知らせしたであろうな。さぞお喜びであったろう。
(1,ディーエスジャック)御意。
(1,オースミダイナー)殿は良い時期に家督を継がれたものじゃ。わしはこれからも藩改革の手を緩めぬぞ。ヒヒヒヒヒ〜〜ン。


 この夜、ススキノの空にはオースミダイナーのいななきが深夜まで響いていたという。


第4回北海道スプリントカップ GV  2000/6/15 札幌1000メートル 曇・良 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 単票数
オースミダイナー 北海道 牡13  55 藤倉寛幸  58.7     412
マークオブハート 北海道 牡4  54 川島洋人  58.8 1/2 1059
ゴールデンチェリー 名古屋 牝7  53 吉田 稔  58.8 クビ 337
ヒットパーク 北海道 牡7  55 宮崎光行  58.9 1/2  3325
フラワータテヤマ JRA 牝7  53 安田康彦  59.1   7393
カガヤキローマン 大 井 牡8  57 石崎隆之  59.2 クビ 10724
ロイヤルスズカ JRA 牡8  57 上村洋行  59.2 クビ   1824
ストーンステッパー JRA 牡8  56 小林徹弥  59.4 1784
アブクマレディー JRA 牝8  54 大塚栄三郎  59.7 11/2   1498
10 カオリスマイル 北海道 牝5  54 五十嵐冬樹  59.7 クビ   1767
11 トウショウライデン 高 知 牡10  55 中越豊光 1.00.4 89
12 アイビーコウキ 佐 賀 牡5  56 鮫島克也 1.00.9 21/2 415


ニフティでは2編に分かれていた準長編。サカモトデュラブが欠場し、カガヤキローマンが復帰した北海道スプリントカップ。結果は、春の瑞穂賞で4連覇を成した13歳馬オースミダイナーがこれを制し、2着には4歳馬マークオブハートが入って、年の差8歳、地元馬同士のワンツーとなった。このレースはカガヤキローマンが精彩を欠いただけでなく、寄れて中央馬を封じたゴールデンチェリーの好アシストも効いている。21『家督』で藩主となっているスズオールマイティは、1週間後に行われる帝王賞に出走するため大井に遠征。また、前年エーデルワイス賞のリードスキー、北海道3歳優駿のタキノスペシャルに続いて、道営馬が地元ダートグレード競走を3連勝した。

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■作品24『金桜』 2000/08/16 盛岡・クラスターカップ GV


〜陣中にて〜


 間もなく開戦するクラスターカップの軍議が行われている陣幕の中へ、カオリスマイルとゴールデンチェリーが入って来たのを見て、サカモトデュラブがあからさまに嫌悪の表情をしてみせた。
 両馬は、道営藩家老のオースミダイナーの紹介状を持って、前夜のうちにこの盛岡にやって来たのである。

(1,カオリスマイル)ご家老様のお言いつけで、本日はサカモト様の陣中のお世話をさせていただきまする。
(1,ゴールデンチェリー)旭川デハ、おーすみノ御家老様ヲあしすとシテ、トッテモ褒メラレマシタヨ。今度ハさかもと様ノオ手伝イヲスルカラ、安心シテ逃ゲテチョウダイミャー。
(1,サカモトデュラブ)くだらん。何故それがしがオースミダイナーごときの侍女や妾の世話にならねばならんのじゃ。


 硬派サカモトデュラブは、過去の時代小説の経緯からオースミダイナーを毛嫌いしている。戦に牝馬が参加することも嫌っている。異国産馬も嫌いである。

 ところが、今回は幕府方の4頭とも牝馬と異国産馬であり、地元藩士にさえも3頭の異国産馬がいる。新潟藩からやって来た助っ人も異国産のセカンドゲスであり、闘う前からサカモトデュラブのやる気は減退気味である。
 味方からもあまり信用されていない。
 そこへ、カオリスマイルとゴールデンチェリーが現れたわけだが、サカモトデュラブには、これを強硬に拒めない理由もあった。

 盟友であるカガヤキローマンが、先の北海道スプリントCですっかりオースミダイナーにまるめ込まれ(とサカモトデュラブは思っている)、今回は両馬ともカガヤキローマンの添え状を持参している。
 それに、北海道スプリントCでG3位に任官されたオースミダイナーの権勢は、全国的にも評判を呼んでおり、サカモトデュラブもG2位とはいえカガヤキローマンからの借り物のような官位なので、霞んでしまっているのだ。

 何より、藩主同士が相対した先の帝王賞では、岩手藩主メイセイオペラが、道営藩主スズオールマイティに先着を許してしまったため、両藩の立場にも微妙な優劣が生じている。



 そんな苦々しい思いを振り切りながら、サカモトデュラブは軍議を始めた。

(1,サカモトデュラブ)他藩の者などどうでも良い。各々の配置を申し渡すからよう聞け。まずは総大将のわしが先鋒を務める故、あとの者はそれぞれにフォローに回るのじゃ。
(1,ハセノデジュール)オ待チアレ。オ主ガ総大将ナドト誰ガ決メタノデゴザールカ。コノ戦ハ殿ノ信望厚イ私ニ任セテクダサーイ。
(1,セカンドゲス)セッカク助ッ人ニ来タノニ、ドウデモ良イトハヒドイ言イグサ。ソレガシニモ自信ト面目ガアルデゲス。
(1,ゴールデンチェリー)ダカラふぉろーハ私ガスルト言ッテルデショ。2番手以降ノ馬ハ全部私ガぶろっくシテアゲルカラ、さかもと様ハタダ逃ゲキレバイインダミャー。おーすみノ御家老様ノヨウニ。

(1,サカモトデュラブ)黙らっしゃい!!読みにくいカタカナで喋るな(;x;)!良いか。幕府の連中は、アブクマレディーとビコーミニスターがわしに遅れまいと必死でついて来るはずじゃ。こやつらのマークを、ショウリノオタケビとアイアムアブラザーに
((2,ハセノデジュール)サア戦ガ始マルデゴザル。我レラハサッサト出陣イタソウデハナイカ。)
命ずる。ハセノデジュールは、中盤でマチカネランとカフェブランを牽制せよ。ヤマサコンドルとタイキインパルスは後詰に
((2,一同)どやどやどや。)
回れ。ボニートダンサーには伏兵を預ける。後方に伏せておれ。よいか皆の者、遅れをとるでないぞ!!!


(1,陣中)……………………。


(1,カオリスマイル)サカモト様。他の方々は勝手に御出陣なされてございます。遅れをとりました。
(1,サカモトデュラブ)人の話を聞けーー(;x;)


〜クラスターカップ〜


 結局、アブクマレディーを制してゴールデンチェリーが先手をとることを得た。
 他の幕府勢も、ほぼサカモトデュラブの読み通りの位置どりとなった。。
 しかし、当のサカモトデュラブは中団の馬群に埋もれ、カオリスマイルがこれを誘導するように付き添っている。

(1,ゴールデンチェリー)さかもと様ハ、ドウシテ私ノ前ニイナインダミャー。セッカク邪魔者タチヲ抑エテアゲテルノニー。
(1,カオリスマイル)サカモト様、早く参りましょう。さっきおっしゃってた通りの展開でございますよ。ただサカモト様が遅れをとっただけ。
(1,サカモトデュラブ)うるさい!どうしていつも周りの連中がごちゃごちゃ邪魔をするのじゃ。昨年の東京盃のように、誰にも何も言われずのびのびと逃げるのがわしの戦なのだ。

 もはやサカモトデュラブにモチベーションの維持は困難であった。
 カオリスマイルがいくら宥めても透かしても誘っても、順位を下げて行くばかりで持ち直す気配はなく、サカモトデュラブは13着に、付き添ったカオリスマイルは12着で戦を終えた。


 一方ゴールデンチェリーは、満を持して交わしに来たアブクマレディーを逆に差し返すと、そのままゴールに向かって4馬身突き放してアシスト態勢も万全のつもりである。

(1,ゴールデンチェリー)邪魔者ハしゃっとあうとシタミャー。デモ、さかもと様ガ前ニイテクレナイト意味ナイノヨネー。コレジャおーすみノ御家老様に何テ報告スレバイイミャー。


 御三家筆頭の尾張藩に、初めて叙任の使者が赴くことになった。


第5回クラスターカップ GV  2000/8/16 盛岡1200メートル 曇・稍重 ※馬齢は旧表記
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 単票数
ゴールデンチェリー 名古屋 牝7  54 吉田 稔 1.11.2     2027
アブクマレディー JRA 牝8  55 大塚栄三郎 1.11.9 2333
マチカネラン JRA 牡4  55 的場 均 1.12.2 11/4 35242
ショウリノオタケビ 岩 手 牡4  55 三野宮通 1.12.5 11/2  328
ヤマサコンドル 岩 手 牡5  56 小林俊彦 1.12.6 1/2   193
カフェブラン JRA 牡4  55 岡部幸雄 1.12.6 クビ 9182
ビコーミニスター JRA 牡7  56 上村洋行 1.12.7 1/2  2407
アイアムアブラザー 岩 手 牡6  56 村松 学 1.12.8 1/2 180
ハセノデジュール 岩 手 牡7  56 菅原 勲 1.13.0 3/4   1466
10 セカンドゲス 新 潟 牡6  56 酒井 忍 1.13.0 クビ   4899
11 ボニートダンサー 岩 手 牡7  56 沢田盛夫利 1.13.3 11/2 87
12 カオリスマイル 北海道 牝5  54 井上俊彦 1.13.6 906
13 サカモトデュラブ 岩 手 牡8  58 関本浩司 1.13.9 11/4 495
14 タイキインパルス 岩 手 牡8  56 村上 忍 1.14.0 1/2 215


外国産馬のカタカナ言葉が実に読みにくい1編である。前作でオースミダイナーと絡んだゴールデンチェリーとカオリスマイルが盛岡に遠征。好調持続のゴールデンチェリーがここで圧勝を遂げ、愛知に初のダートグレードタイトルをもたらす。正月の新春グランプリでも中京1000メートルをレコード勝ちしており、北海道スプリントカップも直線で寄れなければどうなったかわからないレースなので、この頃のゴールデンチェリーは正に淑女スプリンターとして脂が乗っていた、といえる。外弁慶のサカモトデュラブは地元ではこんなもの。。。

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■作品27『駆け引き』 2001/06/13 札幌・北海道スプリントカップ GV 登録時点


〜枠順確定前 門別にて〜


 北海道スプリントカップを数日後に控えたある日、門別城の御座の間に藩士たちが押し掛けた。居並ぶ面々はどれも鼻息が荒い。
 今年の幕府の登録馬が発表されるや、シルバースワットを急先鋒とする改革派が決起したのである。

 彼らが詰め寄る相手は、家老のオースミダイナーである。
 一昨年監察方奉行に取り立てられたヒットパークと、昨年取り入ったマークオブハートも、体制派として家老の横に控えている。


(1,シルバースワット)幕府の強力なメンバーをご覧になられたかっ!御老中のノボトゥルーまでが参戦をほのめかしておるではござらぬかっ!!
(1,クラキングオー)御家老が調子に乗って昨年勝ってしまったからでござるっ!幕府はいよいよ我が藩の取り潰しに本腰を入れて来ましたぞっ!!
(1,ダービーワイルド)この危急を前にして、殿はいったい何処におられるのかっ!
(1,マルカダンガン)殿はいずれにっ!
(2,メイショウヒダカ)今年はサカモト様は来ないのっ!!

(1,オースミダイナー)殿はこのところお加減が悪く、横になっておられるのだ。その方達が目通りかなう状況ではない。


 実は藩主のスズオールマイティは、26『放浪』以来行方知れずとなっているのだが、オースミダイナーとしてはそれを表沙汰にする訳には行かない。
 上座の向こうに御簾を降ろし、床を敷いて横たわる影をスズオールマイティに見せかけてこの場を乗り切るつもりでいる。


(1,オースミダイナー)たとえどのような相手が来ようとも、短距離のスペシャリストであるわし達に任せておけば良いのだ。恒例によりカガヤキローマン殿にも援軍を要請した。そなた達は安心してステイヤーズカップに出るが良い。


(1,シルバースワット)納得行きかねるっ!我らは殿に直接談判したいのでござるっ!!
(1,クラキングオー)そもそも、殿が行方知れずとの噂もござるがいかにっ!
(1,ダービーワイルド)殿の馬主が臓器移植ネットワークに8億円横流ししたとの噂もござるがいかにっ!
(1,マルカダンガン)我が藩にも8億円横流ししていただきたいがいかにっ!
(2,メイショウヒダカ)サカモト様には援軍要請しないのいかにっ!!

(1,オースミダイナー)無礼な物言いは許さぬっ!殿のお体に障るではないか。



(1,シルバースワット)ならば御家老に申し上げたき儀これあり。
(1,クラキングオー)うむ。このピンチを招いた責任を取ってもらわねばなりませぬ。

(1,オースミダイナー)なにっ!?

(1,ダービーワイルド)御家老には、こたびの北海道スプリントカップ参戦を取りやめていただきたく存ずる。
(1,オースミダイナー)ディフェンディングチャンピオンであるこのわしに回避せよと申すのかっ!
(1,マルカダンガン)回避が嫌ならば、補欠に回っていただく。
(1,オースミダイナー)バカめ。そのようなことがあり得るか(^ー^)

(1,シルバースワット)あり得るのでござる。我ら密かに手を回し、御家老の身柄と引き換えに、御老中も回避して下さるとの約束を取り付けましてな(^ー^)


(1,オースミダイナー)な、なんと。その方達は幕府と通じて恥と思わぬのか。我が藩はカガヤキローマン殿とサカモトデュラブ殿を鏡としながら、この戦を通じて闘う集団になったというのに。

(1,クラキングオー)これも藩を救うためと思し召されよ。
(1,ダービーワイルド)今年は御家老に代わって、殿に御出馬願えばよろしい。
(2,メイショウヒダカ)サカモト様は御出馬しないのっ!!

(1,オースミダイナー)か、勝手なことを申しおって。。。



 そのとき、御簾の向こうに横たわる影が手招きをした。
 それを見たオースミダイナーは御簾をくぐってすり寄り、何やら耳打ちをされて戻って来ると、

(1,オースミダイナー)その方どもがあまりに騒がしく、殿は大層お疲れである。早々に立ち去れとの仰せじゃ。


(1,シルバースワット)殿がそのようなことを申される筈がござらぬっ!
(1,クラキングオー)そこにいるのは本当に殿かっ!
(1,ダービーワイルド)まことの殿ならば幕府との決戦に御出馬をっ!

(1,オースミダイナー)あっ!これっ!よさぬかっ!!

 改革派藩士たちは口々に叫びながらオースミダイナーを押しのけ、さらに止めに入ったヒットパークとマークオブハートをも突き飛ばし、御簾を引きちぎって床に横たわる影に駆け寄った。


(1,シルバースワット)殿っ!御出馬をっ!!
(1,クラキングオー)殿っ!御出馬をっ!!
(1,ダービーワイルド)殿っ!御出馬をっ!!

 しかし、床の中にいたのはスズオールマイティではない。
 昨年の北海道スプリントカップでカガヤキローマンの接待役を務め、26『放浪』でサンガイから家督を譲り受けたばかりのディーエスジャックであった。

 オースミダイナーから言い含められるままに藩主の影武者となっていたディーエスジャックは、突然の出来事にただオロオロするばかりである。


(1,ディーエスジャック)そ、それがしが出馬するのでございますか(;x;)


 駆け引きの成否はいかに。


北海道スプリントカップの枠順が確定する前の話。この年、オースミダイナーは道営4頭の代表枠に入れず、前年優勝馬が補欠に甘んじる事態に。また中央からは当初フェブラリーS馬のノボトゥルーも出走を予定していたが回避した。続編は次項。

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■作品28『続・駆け引き』 2001/06/14 札幌・北海道スプリントカップ GV


〜枠順確定後 札幌にて〜


 6月14日、カガヤキローマンは四たび北海道スプリントカップに参戦すべく、新千歳空港に降り立った。
 大井藩主といえども寄る年波には勝てず、今回は介添えとしてゼンノモトーレを従え、浦和藩からは幕府事情にも詳しいリザーブユアハートを借り受けての現地入りである。

 快速エアポートから札幌駅で普通列車に乗り継ぎ、桑園駅で下車しても道営藩の出迎えはない。
 仕方がないので無料送迎バスに乗って競馬場正門前まで行き、そこから駐車場を迂回して厩舎入り口に向かった。見慣れぬ馬たちの微行に対する好奇の視線が痛かった。

(1,カガヤキローマン)だんだん待遇が悪くなるのぅ(^ー^)
(1,ゼンノモトーレ)殿に対するこのような無礼な扱い、許せませぬ。
(1,カガヤキローマン)まあそう怒るでない。わしはこの藩の者たちと交流するのが毎年の楽しみなのじゃ。



〜地方側本陣にて〜


 カガヤキローマンは、厩舎の一角に張られた本陣の幕をくぐり、さっそくオースミダイナーの姿を捜したが、

(1,カガヤキローマン)おや、名物御家老どのがおられぬようじゃな。
(1,ヒットパーク)あっ、これはこれはカガヤキ様。今回、御家老は訳あって戦に参加いたしませぬ。ついては、カガヤキ様に総大将をお願いするよう、仰せつかっておりまする。
(1,マークオブハート)カガヤキ様、お懐かしゅうございます。よろしく、お引き回しのほどを。

 旧知のヒットパークとマークオブハートがそつなく持ち上げたが、そこは歴戦のカガヤキローマンだけに、簡単には乗せられない。

(1,カガヤキローマン)今さらわしが総大将でもあるまい。そういう事情ならば、そなたたちが仕切るが良い。


 27『駆け引き』で周知の通り、オースミダイナーはシルバースワットら反体制派の陰謀によりスプリントカップ出走を断念せざるを得ず、なぜかディーエスジャックがその代わりに出走することになっている。
 カガヤキローマンは、隅っこに控えるディーエスジャックの姿を認めた。

(1,カガヤキローマン)おう、そなたは確か、昨年わしの世話を焼いてくれた若者じゃな。
(1,ディーエスジャック)ははっ。お見知りおきいただき、光栄に存じます。
(1,カガヤキローマン)そなたが世話してくれた小娘、ほれ、何というたかな。もう名前も忘れたが、それなりに楽しませてもらったぞ。
(1,ディーエスジャック)それは祝着。

 昨年、カガヤキローマンの世話役を務めたディーエスジャックは、当初は稽古相手として選りすぐりの小姓(2歳牡馬)を用意していたのだが、カガヤキローマンの要求により急きょ小娘(2歳牝馬)を見つくろった。
 それがカーディアンゴット・スイートソウル・リオエワンの3頭だったのだが、カガヤキローマンは中でもリオエワンを気に入ったらしく、秋には江戸に呼び寄せたものである。

 その一方で、オースミダイナーの妾であるゴールデンチェリーに割り込まれてしこたま飲まされ、翌日の戦で惨敗したのだが、それがオースミダイナーの策略だったことは未だに知らない。



〜幕府側本陣にて〜


(1,ノボジャック)やれやれ、大儀じゃのぅ。弱小藩ひとつ討つためにわざわざ出張らねばならぬとは。
(1,ビーマイナカヤマ)我らが力不足のため、申し訳もなく。
(1,ノボジャック)さっさと片づけて、今宵はススキノとやらに繰り出すぞ。エンペラーでイヴニング娘。ショーでも見よう。

 北海道スプリントカップでは例年、ビーマイナカヤマらが幕府側の中心となって参戦していたが、今ひとつ成果が上がらず、昨年はついにオースミダイナーら地方勢に4着までを占められて、幕府の面目まる潰れとなった。
 そのため、今年はついにGT馬である老中ノボトゥルーが乗り出す予定であったのだが、道営側反体制派との駆け引きにより、オースミダイナーを戦から降ろすことと引き替えにノボトゥルーも手を引いた。

 とはいえ、幕府軍を取り仕切るのは目下GV連勝中の大目付ノボジャックである。

 このレースで幕閣の要職にある大物が直々出張るのは、異例のことといって良い。
 ナンパ好きの岡っ引きだったビーマイナカヤマも、一昨年の活躍で士卒に取り立てられ、いっぱしの同心となって士気は高まるばかりである。


(1,ノボジャック)そろそろ発走の時刻じゃな。参るとするか。

 幕府軍の連中は一斉にスタートした。
 その頃、地方側本陣では。。。



〜地方側本陣にて〜


(1,ヒットパーク)・・・という訳でございます。
(1,カガヤキローマン)ふむふむ。御家老どのも難儀な目に遭うたものじゃのぅ(^ー^)
(1,ディーエスジャック)難儀なのはそれがしでございます。殿の影武者を務めたばっかりに、このような戦に出るハメになりまして、、、(;x;)
(1,マークオブハート)案ずるな。過去2着3着の実績あるそれがしやヒットパークどのがいれば無様なレースにはならぬよ(^^)v
(1,カガヤキローマン)はっはっは。頼もしいことじゃのぅ。

(1,リザーブユアハート)あ、あの、恐れながら。
(1,カガヤキローマン)なんじゃ。そちも話に加わりたいのか(^ー^)?

(1,リザーブユアハート)幕府の4頭が既に第4コーナーに……


(1,カガヤキローマン)なんじゃとっ!!
(1,マークオブハート)しまったっ!遅れをとりましたっ!!
(1,ヒットパーク)なんという不覚っ!これではもう間に合いません。
(1,ディーエスジャック)御家老様や叔父上になんとご報告すれば良いのやら(;x;)


 かくして、幕府軍上位4頭独占の結果となった。



〜その夜 ススキノにて〜


(1,ノボジャック)チョロいもんじゃのぅ。この程度の相手に何を毎年苦労しておったのじゃ。
(1,ビーマイナカヤマ)ははっ。面目次第もございません。

(1,ノボジャック)これからの統一重賞は、我ら目付方の監視も厳しくする所存じゃ。心してかからねば即刻地方藩送りとするぞよ。
(1,ビーマイナカヤマ)うへー。肝に命じますです。(その方がいいかも)

(1,ノボジャック)まあ良い。こたびのわしの参戦は余興じゃ。オースミダイナーとやら申す隠密崩れの家老もいなかったしな。この程度の藩ならばいつでも取り潰せるじゃろう。
(1,ビーマイナカヤマ)恐れ入りますです。


 間もなく、お目当てのイヴニング娘。ショーも始まり、ノボジャックらは上機嫌で札幌を後にしたという。


第5回北海道スプリントカップ GV  2001/6/14 札幌1000メートル 晴・良
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 単票数
ノボジャック JRA 牡4  57 K・デザーモ  57.7 レコード 14992
サウスヴィグラス JRA 牡5  56 柴田善臣  57.7 ハナ 9097
ビーマイナカヤマ JRA 牡7  56 鹿戸雄一  58.0 11/2 3976
キーゴールド JRA 牡6  55 内田浩一  58.2 1/2 7039
マークオブハート 北海道 牡4  56 松本隆宏  58.4 11/2 2289
カガヤキローマン 大 井 牡8  57 張田 京  59.0 662
リザーブユアハート 浦 和 牡5  56 橋 尚也  59.2 1074
ミヤマエンデバー 北海道 牡3  54 堂山直樹  59.4 3/4 528
ディーエスジャック 北海道 牡4  56 宮崎光行  59.6 11/2 1741
10 ゼンノモトーレ 大 井 牡7  55 石崎隆之  59.7 クビ 166
11 ヒットパーク 北海道 牡7  55 井上俊彦  59.7 クビ 439
12 マイショウパーク 新 潟 牝4  54 五十嵐冬樹 1.00.4 202


この日は北海道スプリントカップとステイヤーズカップの同日施行。スプリントで代表から漏れたオースミダイナーはステイヤーズに回り、6着に終わった。勝ったのはクラキングオー。一方スプリントの方は、オースミダイナーとサカモトデュラブを欠き、カガヤキローマンは往年の輝きなく、若手有力馬も揃ってはいたが、ダート1000メートルの日本レコードに0.2秒差と迫る快時計で走られては太刀打ちできず、前年上位4頭独占の借りを見事に返される結果となった。このシリーズの主役を張って来た3頭もそろそろ引きどき。今後は57秒台を出せるスプリンターの育成が急務といえる。

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■作品30『時代』 2002/06/13 札幌・北海道スプリントカップ GV


 北海道スプリントカップを1週間後に控えた6月7日夜、札幌ドームから吐き出された人の波の中に、1頭の馬の姿を見いだすことができる。
 顔には赤十字のペイント、7番の赤ゼッケンを羽織り、4肢に赤いバンテージを巻いて鬣を立て、さながらベッカムのようだ。
 福住駅から地下鉄に乗り込んだその馬は、さっぽろ駅でJR線に乗り換え、宿泊先である競馬場近くのホテルに向かおうとした。そのときである。

(1,カガヤキローマン)サカモトどのではござらぬかっ(^^)/

 小樽行きの普通列車を待っていたその馬を、遥か向こうのホームに到着した快速エアポートを降りたカガヤキローマンが目ざとく見つけ、大声で呼びかけた。
 カガヤキローマンは脱兎のごとく駆け出し、昇りエスカレーターを逆走して1階コンコースに降りると、売店で「猫のたまご」を買ってから相手側のホームに駆け昇り、そして赤づくしの馬に駆け寄った。
 その間1000メートルを57.5秒。未だかつてない速さである。


(1,カガヤキローマン)いやぁ懐かしい。このところ音沙汰がなかったのでどうしているのか心配しておりましたぞ。実はそれがし、身を退いて江戸を引き払い、今は上山で隠居生活を送っていましてな。岩手に近いのでサカモトどのとも親しく行き来できると思っていたのでござるが、一向に連絡が取れず、どうしたものかと。ここに来ればきっと会えると思い、たった今到着したところですぞ。して、出馬登録は済ませましたかな?
(1,サカモトデュラブ)い、いや、、わしは、、、

 一気にまくし立てるカガヤキローマンに、赤づくしの馬は明らかに狼狽している。


(1,カガヤキローマン)それがし、北海道スプリントカップは5度目ですぞ。老いぼれ家老のオースミダイナーを抜いて最多出走回数になるのでござる。あ、老いぼれなどと言っては失礼かな。自分の方こそ老いぼれてしまっているからなぁ。はっはっは。
(1,サカモトデュラブ)・・・・・。


(1,カガヤキローマン)どうしたのでござる?いつものサカモトどのらしくないが。あっ、その格好は、ワールドカップ帰りですな。それがしも見たかったのでござる、札幌ドームのアルゼンチン・イングランド戦。しかし、どうしてもチケットが手に入りませなんだ。さては、かのメイショウヒダカとかいう姫御と一緒に観戦ですかな(^ー^)聞けば、かの姫御も既に登録抹消して繁殖の準備に入っているとか。いよいよスプリントの申し子の誕生ですな〜。
(1,サカモトデュラブ)そ、そんなことはないぜよ。わしは今、、、

 どうやらサカモトデュラブらしい赤づくしの馬は、恐る恐る名刺を差し出した。
 その名刺には、


「よさこい祭普及協会競馬場支部特命全権大使 サカモトリョウマ」

 の肩書きが。


(1,カガヤキローマン)はて。サカモトリョウマとは、サカモトどののことでござるか??
(1,サカモトデュラブ)実は、わしは今、高知藩に所属しちょりましてな。当藩のマスコットキャラクターが「リョウマくん」というんじゃが、ゴロがいいというので、わしが「サカモトリョウマ」の名前でよさこい祭の大使をやっとるんぜよ。よさこいは、来年100周年を迎えることになっちょって、来週から始まる札幌の「よさこいソーラン祭」でもPRするつもりぜよ。

(1,カガヤキローマン)北海道スプリントカップには、出ないのでござるか?
(1,サカモトデュラブ)今は、地域コミュニティーの時代じゃろ。わしは、あんたのようにいつまでも輝くロマンを追ってはいられん。どうせ種牡馬になれんのなら、早く生き甲斐を見つけて第二の馬生を歩まねばならんぜよ。


 サカモトデュラブは、身も心も言葉使いも“サカモトリョウマ”になり切っているかのようだ。



〜北海道スプリントカップ当日〜


 あれから1週間、カガヤキローマンはすっかりへこんでしまっていた。

 地元道営藩の家老であるオースミダイナーは、14歳を迎えてすっかり衰え、厩舎にこもったまま今年はまだ1度も出走していないという。
 しかも前々日に行われたステイヤーズカップでは、オースミ政権打倒を目指す一派のクラキングオーが2連覇を達成し、地元の注目はクラシックディスタンスの馬たちに移りつつある。

 このような状況の中、短距離のエースであり、しかもオースミダイナー派の中核を成すマークオブハートも直前で代表メンバーから外されてしまった。


(1,カガヤキローマン)こんな気合いの入らない戦は初めてだ。幕府からは相変わらず強力なメンバーが派遣されて来ている。ビーマイナカヤマもノボジャックもサウスヴィグラスもいるというのに、我らにはサカモトどのもオースミダイナーもマークオブハートもいないのか。。。


 放心状態のカガヤキローマンが一番最後にパドックに出てみると、岩手藩の新しい遠征馬がギャラリーに向かって演説していた。

(1,トーヨーリンカーン)地方馬の、地方馬による、地方馬のための地方競馬をこの世から滅ぼしてはならないっ!!


(1,カガヤキローマン)龍馬が去って、リンカーンの時代か...なるほど、異国産馬の嫌いなサカモトどのが居られなくなる訳だ(^ー^)


 この日、札幌競馬場では驚異的なレコードが生まれた。
 サウスヴィグラスがダート1000メートルを56.8秒で走破。
 前年ノボジャックによって記録されたコースレコードがさらに0.7秒更新される日本レコードであり、同場の芝1000メートルのレコードにも0.3秒差と迫る破格の時計である。

 トーヨーリンカーンが地方馬として初めて58秒の壁を突破し、幕府4頭の間に割って入った。
 上位5頭のうち、ビーマイナカヤマを除く4頭が異国産馬である。


(1,カガヤキローマン)我らの時代には夢にも思わなかったことが現実に起こっている。ダートの時計が芝を超える日も、やって来るやも知れぬな。


 カガヤキローマンは、静かに帰路についた。


第6回北海道スプリントカップ GV  2002/6/13 札幌1000メートル 曇・良
      所 属 性齢 重量 騎   手 タイム 着差 人気
サウスヴィグラス JRA 牡6  56 柴田善臣  56.8 レコード
ディバインシルバー JRA 牡4  56 穂苅寿彦  57.2
トーヨーリンカーン 岩 手 牡4  56 菅原 勲  57.6
ビーマイナカヤマ JRA 牡8  56 鹿戸雄一  58.2
ノボジャック JRA 牡5  59 蛯名正義  58.6
キタサンモガンボ 北海道 牡8  55 坂下秀樹  59.1 21/2 10
ビーマイプリンセス 北海道 牝5  54 川島洋人  59.8
オグリラシアン 笠 松 牡5  56 安藤勝己  59.8 クビ
ヒットパーク 北海道 牡8  55 宮崎光行 1.00.2 12
10 カガヤキローマン 上 山 牡9  57 大枝幹也 1.00.6 11
11 ボタンフジ 北海道 牝3  52 竹内仁志 1.00.7 クビ
12 コアレスフィールド 船 橋 牡8  55 早田秀一 1.02.4


ほとんど現代小説。オースミダイナーは体調整わず、サカモトデュラブは高知移籍後条件級でぼちぼちの状態。マークオブハートは一時船橋に移籍していたが、帰厩して前走はエトワール賞を勝ったものの1分を切ることができず、本来の状態にないまま結局直前回避となった。このレース5度目の遠征となるカガヤキローマンは上山に籍を移しての参戦であるが、既に3年以上勝ち星から遠去かっており、今回は遂に1分を切ることもできず大敗する結果に。中央勢は前年の1〜3着馬にディバインシルバーが加わったが、中でも前年2着のサウスヴィグラスは高知・黒船賞でノボジャックを8馬身ちぎるなど圧倒的な強さで来ており、今回は驚異的なレコードで統一重賞3連勝を遂げた。中央馬の底はかとない強さを思い知らされた一戦であるが、恐るべきはそこに割って入ったトーヨーリンカーン。

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