2007年3月18日掲載
『列車まかせの旅』第22弾(2004年7月8日)


第7部:「ちょっとこだわりの列車」その40/JR根室本線・普通2429D

 さあ、いよいよ今回の「旅」の主役列車である根室本線の釧路行・普通2429Dの乗車です。釧路ま
での切符は事前に買っていないので、まずはみどりの窓口に行かねばなりません。

 窓口で「釧路まで」と申告すると、

 「9:38発の普通で行きます?」

と確認されました。単に釧路に行くだけならば、2429Dに乗るよりも9:30発の特急『スーパーホワイ
トアロー8号』でいったん札幌に戻り、札幌11:51発の石勝線経由の特急『スーパーおおぞら5号』
で行った方が1時間41分も早く着けるのです。

 そう言えば旅行記第6弾で上諏訪から豊橋まで飯田線の普通で6時間半かけて行った時も上諏訪の、
みどりの窓口で飯田線経由か確認されたよなぁ・・・。

 ともあれ、滝川駅の窓口係の対応は実に丁寧で気持ちの良いものでした。JR北海道の職員は接客
態度が良いと聞いていますが、まさにその通りですな。

 滝川駅のみどりの窓口で買った滝川→釧路の乗車券で
す。乗車距離308.4キロで運賃は5,560円です。

 さて、その普通2429Dなんですが、滝川発9:38で釧路着17:23。運行時間は7時間45分にも及び、
運行時間で行くと日本最長の列車です。

 ただし、釧路まで行くのに普通に走って7時間45分掛かるわけではなく、同列車は運行上の都合
により途中駅で何度も長時間停車をします。

 その長時間停車がどんなもんか挙げますと、富良野で21分、落合で15分、御影で4分、帯広で
44分(!)、幕別で5分、上厚内で4分、尺別で7分、古瀬で10分と、合計で何と1時間50分
もの途中停車をします。つまり正味の走行時間は5時間55分となります。

 私は知らなかったのですが同列車は鉄道ファンの間では有名であり、鉄道雑誌で同列車の乗車記が
掲載されるほどなのです。

 地元の人々から見れば、ただのドン行列車ですが、私は期待に胸を躍らせながら列車が出るホーム
へと向かいました。

 いよいよ主役の登場。滝川駅に停車中の釧路行・普通
2429Dです。車両はデッキを備えた一般型のキハ40形
単行でした。
【北海道・滝川駅】

 定刻の9:38、普通2429Dは滝川駅から出発しました。7時間45分の旅の始まりです。車内を見渡
すと乗客は私を入れて7人いました。

 鉄道ファンらしき姿も無く、嬉々として乗っているのは私ぐらいでしょうな。後はおそらく地元の
人たちで、釧路まで乗り通す人は、たぶんいないでしょう。

 ちなみに、根室本線の滝川←→富良野間で運行されている列車は、快速、普通を全部合わせても日
に10往復しかなく、9:38発の我が2429Dの次は、何と13:34発の落合行まで4時間近く列車はありま
せん。

 列車は快調に飛ばしていました。車内を見ると、どうも非冷房の車両のように見えます。ま、北海
道は夏場もさして気温は高くならんでしょうから、もし暑ければ窓を開ければ事足りるのでしょう。

 7分で最初の停車駅東滝川に停車。同駅では夫婦らしきカップルが乗って来ました。ホームでは、
おじいさんとおばあさんが二人を見送っていました。里帰りでもしてたんかな?

 次に停車した赤平には広い構内と多くの側線がありました。赤平市には、かつて4つも炭鉱があり、
同駅は石炭の積出しで栄えていたんだそうです。

 その炭鉱も1967年から閉山が始まり、1994年に最後の炭鉱が閉山すると、最盛期には約6万人もい
た市の人口も現在は1万4000に激減してしまったんだそうです。

 赤平駅の構内には、たくさんの側線がありました。か
つては石炭運搬用の貨車で賑わっていたんでしょうが、
今はまったく使われていない様子です。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 同駅の南側には「ズリ山」があり、山頂には展望台があり階段で登る事が出来るようです。赤平を
出てすぐ右には赤平山があり、その斜面には赤平山スキー場があります。

 茂尻、平岸に停車を経て芦別に停車。ここ芦別駅にも構内に広い空地がありました。かつては、同
地にもたくさんの炭鉱があり、運炭鉄道として三井芦別炭鉱鉄道まで運行され最盛期の人口は7万を
数えたそうです。

 しかしながら、ここの炭鉱も1992年に最後の炭鉱が閉山すると人口は1万8000まで減少して現在に
至っているそうです。

 同駅の左手には、何やら巨大な仏像がありました。後日、インターネットで調べたところ、その像
は「北海道大観音」なるもので高さは88メートルもあり、仏教系テーマパーク「北の京芦別」内に
あるとの事です。

 同パーク内には何と五重の塔の形をしたホテルや京都の三十三間堂を模したホテル、円形の池の中
心にある八角堂を中心に放射状に十二のお堂を配した十二支苑などがあります。

 パーク本体と大観音の間は400メートルほど離れており、かつてはモノレールが運行されていた
ようですが入場者数の不振から現在は休止しているそうです。

 この手のテーマパークと言えば、北陸本線の加賀温泉駅近くにある「ユートピア加賀の郷」を思い
出しますが、そちらも入場者数が振るわず閑散としているそうです。

 芦別を後にして上芦別、野花南に停車し、長い清里トンネルに入りました。トンネル内で下り勾配
に入ったらしくかなりのスピードが出ていました、こんなにトバす普通の気動車列車は初めてです。

 トンネルの中は気温が低いのか窓が曇りました。この車両はエアコンが付いていないので除湿が出
来ないのです。

 島ノ下の停車を経て、かの有名な富良野に到着。同駅では1両増結するため21分停まります。同
駅に着くと乗客は、ほとんどが降りて残ったのはふたりだけでした。それでは私も降りてみましょう。

 ドラマ「北の国から」とラベンダーで有名な富良野で
す。途中下車して周辺をウロついて見たいのですが、今
回は2429Dに乗り通すのが目的なので、それはまた富良
野線に乗りに来る時にしましょう。
【北海道・富良野駅】
 到着して間もなく、後方より増結車両が現れました。
車両は同じキハ40です。
【北海道・富良野駅】
 しばし増結シーンを眺めていました。鉄道誌の2429D
乗車記によると、この先の乗客増に備えた増結ではなく
運用の都合ではないかと言う事です。つまり回送を兼ね
た増結か?
【北海道・富良野駅】
 ホームの上にあった観光案内の看板です。富良野は北
海道のへそ、つまり中心にあるんですな。
【北海道・富良野駅】

 ホームをウロつきながら周辺を見ていると、列車の連結部で係員が工具箱を持ち出して何やらガチ
ャガチャやっているのが見えました。車両を連結するのに工具を使っているところは見た事がありま
せん。いったい何をやっとるんかいな?

 構内の隅には車体側面に「ツーリング・トレイン・フ
ラノ」と描かれた旧型客車が置かれていました。後日調
べたところ、JR北海道がバイク旅行者用に余剰客車を
改造して設置した簡易宿泊所であり、ここ富良野以外に
も釧路と根室にあったようです。宿泊料金は500〜6
00円と激安ですが寝袋を持ち込まねばならず快適とは
言い難かったそうで、現在は3箇所とも閉鎖されたとの
事です。
【北海道・富良野駅】

 11:03、何と隣のプラットフォームに特急らしき列車が到着し大勢が降りてきました。はて? 根
室本線の滝川←→新得間には特急は走っていないはずだが・・・。

 時刻表を調べて見ると、その列車は札幌←→富良野間で6月から9月まで運行されている臨時特急
『フラノ・ラベンダー・エクスプレス3号』でした。富良野のラベンダーを当て込んだ観光輸送列車
と言うわけですな。

 富良野駅に到着した特急『フラノ・ラベンダー・エク
スプレス3号』です。車両はキハ183系を改造したジ
ョイフル・トレインの『クリスタル・エクスプレス・ト
マム&サホロ』です。
【北海道・富良野駅】
 JTの車体側面には、「クリスタル・エクスプレス」
のロゴ・マークが描かれていました。
【北海道・富良野駅】

 ぼちぼち発車時間が近づいていたので車内に戻ると10人ほどの乗客がいました。時刻は11時で、
さすがに車内は少し暑くなっていました。見ると天井の扇風機が回っています。

 座席で発車を待っていると、発車時刻の11:06になって列車が遅れる旨のアナウンスがありました。
何で?

 その時、隣のプラットフォームを1両の気動車が前に向かって通過して行くのがチラリと見えたと
思ったら、間もなく前方からバックして来て連結しました。

 どうやらさっき連結係が工具でガチャガチャやっていたのは連結機構部に何かトラブルがあったか
らみたいです。結局、トラブルが解決出来なかったので後ろに連結するのを諦めて前に連結したんで
すな。

 連結作業が行われている最中にJRの職員が説明のた
め車内に現れました。
【根室本線・普通2429D車内】

 その職員曰く、この列車はワンマン運行であり無人駅では1両目からしか乗り降りできないので、
前に車両を連結した関係で、この先の無人駅で降りる人は前方車両に移って欲しいとの事でした。

 そう説明した上で職員は乗客ひとりひとりに降りる駅を確認して行きました。結局、半分以上の乗
客が前の車両に移って行きましたが、この列車にこだわっている私としては滝川発の車両に乗って釧
路まで乗り通さなければ意味が無いので、2両目となった車両に残りました。

 11:28、未だ停まったままの車内からホーム上の列車案内板を見上げると、表示は次発の15:17・落
合行になっていました。我が2429Dは、すでに発車した事になっとるんですな。

 その時、陸橋から人が降りて来ましたが、いないはずの列車が停まっているのを見て「ん?」と言
う表情をしていました。

 11:32、定刻より26分遅れて富良野から発車。ワンマン放送のテープ(?)が早送りされる音が
聞こえ、見れば車掌が乗っていました。

 この列車はワンマン運行のはずですが、大幅に遅れたせいで、この先トラブルが起こる可能性もあ
り、それに備えて車掌を乗せたのでしょうか・・・?

 布部、山部、下金山、金山の4駅では乗降なし。その次の東鹿越駅の手前で左手に、かなやま湖が
見えて来ました。

 12:07に東鹿越に停車。同駅では8分停車し、本来、落合で交換する予定だった滝川行の普通2432D
と交換しました。

 12:28、32分遅れて幾寅駅に到着。この駅は鉄道ファンの間では有名な駅です。

 幾寅駅です。同駅は高倉健主演の映画『鉄道員(ぽっ
ぽや)』の舞台となった幌舞駅としてロケが行われた駅
です。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】
 駅舎の出入口上には「ようこそ幌舞駅へ」の看板、柱
には「ほろまい」の看板も取り付けられていて本来の駅
名標より目立っており、少々まぎらわしく見えてしまい
ます。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 幾寅駅を見るのは楽しみのひとつでした。駅前には映画で使用された建物も保存されているそうで
あり出来れば途中下車したかったのですが・・・。

 幾寅から発車し、落合駅の手前まで来たところで汽笛の連呼が聞こえたと思ったら急停車しました。
前方を見ると線路脇に作業員の姿が見えましたが、列車に気づいてなかったのでしょうか?

 12:38に落合に停車。定時運行であれば、ここで15分停車するので降りて周辺の撮影をするつも
りだったのですが、列車は31分も遅れており、すぐに発車してしまいました。

 落合を出ると次の新得までは28キロも駅がなく、途中には上落合、新狩勝、広内、西新得の4つ
の信号場があります。

 ちなみに信号場とは単線の路線で列車交換を行うための施設であり、ここでは線路が複線になって
います。

 落合から20分程度走って千歳から来た石勝線と合流し、長いトンネルに入ると芦別を出た時を上
回るスピードで飛ばし始めました。それこそ特急並の走りっぷりで、一般型の気動車でこんなにスピ
ードが出せるのかと思うほどでした。ひょっとして少しでも遅れを取り戻そうとしとるんかな?

 なにせ新得から先は特急も走る区間なので、我が2429Dの遅れが原因でダイヤが乱れたのでは大勢
に迷惑を掛けますからな。

 落合→新得間の車窓風景です。広大な牧草地が広がっ
ていました。実に北海道らしい風景ですな。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 12:59、14分遅れで新得に到着。落合での停車時間を縮めて一気に17分も取り戻しましたな。
同駅では、ほとんど乗客が降りて、車内は、たったふたりになりました。

 現在、札幌←→釧路間を結ぶ特急は、すべて石勝線経由で運行されており、新得は乗換駅なのです。
皆さん特急に乗り換えるんでしょうな。

 新得駅構内の側線にはジョイフル・トレインが停まっ
ていました。一般型であるキハ400形を改造したお座
敷車です。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 新得は、新得そばが名物であり、鉄道ファンも同駅を訪れると、そばをよく賞味しているようです
が、我が2429Dは同駅で1分しか停車しないので残念ながら食べる事は出来ません。

 新得を出て8分で十勝清水に到着。同駅では特急との交換で8分停車するとの事です。ほどなく、
札幌に向かう特急『スーパーおおぞら6号』と交換しました。

 13:17に十勝清水を出発。普通列車なのに次の羽帯駅は通過。ちなみに同駅は普通列車でも半数が
通過するそうです。13:27に御影着、この時点で遅れは21分に増えていました。

 御影を出て上茅室信号場で停車。ここで滝川行の普通2434Dと交換しました。本来ならばこの列車
とは次の茅室駅で交換するはずでした。

 途中、大成の停車を経て13:45に西帯広に到着。同駅では札幌へ向かう特急『とかち8号』と交換
しました。

 西帯広を出てJR貨物の帯広貨物駅の脇を通ったはずですが、それには気づかずに柏林台に到着。
ここら辺りは、もう帯広の郊外で駅は住宅に囲まれていましたが無人駅でした。

 北海道の住宅です。ご当地ならではの屋根の形状が何
とも特徴的です。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 柏林台から5分で帯広に到着。定刻より16分遅れていました。帯広は、その名が知られているだ
けあって、さすがに大都市ですな。

 帯広駅でホームに降りると、対面ホームに池田行の普
通2551Dが停まっていました。同列車は、何と最後尾に
第三セクターの、ちほく高原鉄道の軽快気動車を併結し
ていました。
【北海道・帯広駅】

 併結列車との出会いに驚いた私は、さっそく同列車を観察しようとしたのですが、11:54発の2551D
は、すぐに発車してしまいました。

 同列車が併結していた、ちほく鉄道車は、我が尊敬する漫画家・松本零士先生の作品のひとつ『銀
河鉄道999』のラッピング車でした。

 ちなみに、ちほく高原鉄道は、池田←→北見間の国鉄池北線を転換開業させた第三セクター鉄道で
したが、利用者の低迷から2006年4月21日に廃止になってしまいました・・・。

 それはさておき、2551Dに併結される、ちほく鉄道車は、池田駅で同列車から切り離されると快速
『銀河』となり、ちほく線を北見まで走ります。

 この記事を書いている時点では、私は全国各地の第三セクター鉄道に乗っていましたが、私が知る
限りJR車と併結運転していたのは、ちほく鉄道だけでした。

 人口17万都市の帯広駅は、2面4線のホームを持つ
真新しい近代的な高架駅でした。
【北海道・帯広駅】

 我が2429Dは、定刻の運行であれば、ここ帯広で44分もの大休止となるのですが、遅れているの
でたぶん停車時間を短縮して定刻に出るでしょう。

 2551Dを見送ったあともホームに残っていたところ、釧路に向かう特急『スーパーおおぞら5号』
が後着し、先に発車して行きました。

 まだまだ停車時間があったので、とりあえず昼食にしようと思いホームの階段を降りると、そこに
は改札があるのみでトイレすらなく、改札を出なければ反対側のホームにすら行けない構造になって
いました。

 私は改札の係員に「トイレ」と申告してから改札を出ると、大きな駅舎内で手早く食事が出来る店
を探しましたが見つからず、結局、コンビニで得意のおにぎりを買い込むと列車に戻りました。

 帯広と言えば豚丼が名物なんですが、この時の私は、それを知りませんでした。もっとも、知って
いたところで、この時の停車時間では食べに行くのは無理でした。

 2429Dは停車時間を切り詰める事により定刻の14:23に帯広駅から発車しました。車内の乗客は私を
入れても4人しかいませんでした。外を見ると雨が降っています。

 次に停車した札内駅の傍らには、北海道の名産品であ
る馬鈴薯(ばれいしょ=ジャガイモのこと)の集荷貯蔵
所がありました。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 札内の次、稲士別は通過しました。同駅は仮乗降場からの格上げ駅で、羽帯駅と同様に普通列車で
も半数が通過してしまう駅です。

 続いて幕別に停車。同駅は「パークゴルフの町・幕別」と謳っているだけあって何と駅の真横にパ
ークゴルフ場が造られていました。ここで札幌へ向かう特急『スーパーおおぞら8号』と交換。

 利別の停車を挟んで池田駅に到着。同駅は、石北本線の北見駅へと伸びる、第三セクター・ちほく
高原鉄道との分岐駅でもあります。

 同駅では、私の乗る2両目にJRの職員がふたり乗って来ましたが、車内を見渡すを乗客は何と私
ひとりになっていました。皆さんここで降りたのか?

 次の十弗駅は、「とうふつ」と読むのですが「十ドル」とも読めるため、ホームに10ドル札を模
した観光看板を立てている面白い駅です。

 続いて豊頃、新吉野に停車。新吉野を出て浦幌に向かう途中、ホームの長さが車両1両分もない常
豊なる駅を通過しました。

 短いホームに立つ駅名標を見たので駅には間違いなさそうなのですが、時刻表を見ても同駅の名前
は載っていません。

 てっきり廃駅かと思っていたら、調べてみると豊頃は駅ではなく信号場でした。短いホームは列車
交換を通票方式で行っていた頃の名残で、当時は、このホームで通票の受け渡しを行っていたんだそ
うです。

 15:26に浦幌に停車。同駅を出て15分ほど走って上厚内に到着。同駅では3分停車し、DD51
型ディーゼル機関車に牽かれた上りの貨物2092列車と交換しました。

 次の厚内を出ると海が見えました。その次の直別の手前で初めて牧草地に牛の姿を見ました。これ
まで見た牧草地には、なぜか一頭も牛を見掛けなかったのです。

 直別に続いて尺別に停車。同駅では7分停車し、釧路発の茅室行・普通2528Dと交換しました。

 尺別駅では、茅室行の普通2528Dと交換しました。雪
下ろしの利便性を考えたためでしょうか、一方に大きく
傾斜した駅舎の屋根が印象的です。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 次の音別を出ると再び海沿いに出ましたが、霧で一面真っ白であり水平線も何も見えませんでした。
砂浜を見ると、けっこう海が荒れているのにたくさんに釣り人の姿が見えます。

 音別を出ると根室本線は約4キロほど海沿いを走りま
す。海は霧でモヤっていました。
【根室本線・普通2429Dの車窓より】

 束の間、海を見て再び内陸に入ると古瀬に到着。同駅では10分停車し、特急『スーパーおおぞら
10号』と交換しました。これで道中に交換する列車は最後となります。

 次に停車した白糠駅からは、内陸の北進に至る白糠線が延びていましたが利用率の低迷から1983年
に廃線となりました。

 北海道には国鉄時代に数多くのローカル線が敷かれていましたが、いずれも不採算の路線が多く、
1980年代に21路線・約1300キロが一気に廃線となりました。

 車社会となった現代では鉄道の存在が沿線の活性化に繋がるとは言えず、合理化による廃線は致し
方ない事なのですが、鉄道ファンとしては、これらの路線に乗れなかったのが悔やまれます。

 次の西庶路駅では、列車から降りた女子高生が陸橋を渡らずにホームから反対側の線路に飛び降り
て駅舎に向かうのが見えました。

 こんな行為を大阪近郊の駅でやれば下手すりゃニュース沙汰ですが、列車本数の少ない地方路線で
は、しばしば見受けられる光景なのです。

 気づけば車内の温度が下がり始めており、私はシャツの袖を延ばしました。外は雨が降っており、
釧路に近づくにつれて視界が悪くなって来ました。

 庶路を出てしばし海沿いを走り、阿寒川を渡ると住宅地に入り大楽毛に停車。ここで高校生らしき
若者がドっと乗り込んで乗車率は30%ほどになりました。

 数えるほどしか乗客のいなかった車内は若者達のはしゃぎ声で一気に賑やかになりました。大楽毛
から若者達が乗って来る事は、鉄道雑誌の2429D乗車記で読んで知っていました。

 2分で次の新大楽毛に停車。この辺りは、すでに釧路の都市圏に入っています。そして定刻の17:22、
我が2429Dは終点の釧路駅に到着しました。

 釧路駅に到着した普通2429Dです。滝川を出てから7
時間45分、本当にお疲れさまでした。
【北海道・釧路駅】

 かつて飯田線で普通544Mに6時間半乗った時は、余りの長時間乗車にうんざりしたので今回も
覚悟はしていたのですが、意外や最後まで楽しく乗る事が出来ました。

 これは私が長時間のローカル列車旅に慣れたと言うよりも、目新しい北海道の景色に見とれて飽き
なかったからでしょうな。

 ま、何はともあれ、これで念願の日本最長運行時間列車乗覇と言うタイトルを獲得しました。それ
が何よりも嬉しいですな。

 ホームに降りて構内を見ると、釧網本線で運行されている釧路湿原観光用のジョイフル・トレイン
『くしろ湿原ノロッコ号』が片づけられるところでした。2429Dが着く8分前に同列車は到着してい
たのです。

 駅を出ると街中には霧が出ていました。聞くところに
よると霧は道東の名物とか。
【北海道・釧路】
 釧路駅です。根室本線が通るほか、網走へと通じる釧
網本線列車の起終点駅でもあります。札幌と結ぶ根室本
線の特急は同駅が起終点駅であり、ここから根室方面の
列車は1日2往復の快速と、上り6本、下り3本の普通
列車、それに厚岸までの区間運行列車が3.5往復となり
ます。
【北海道・釧路駅】

 にしてもさぶいっ! 駅前の沿道に立っていた気温/路面温度表示器を見ると、気温は16.5度、小樽
と同じでした。

 さて、お次は釧路湿原を見に行きます。湿原展望の定番は釧路の北西にある釧路湿原展望台ですが、
ここは車でなければ行けません。

 事前に調べたところ、釧路湿原展望台から湿原を挟んで東側に、もうひとつ細岡展望台があり最寄
りの釧網本線・釧路湿原駅から歩いて行けるとの事なので、そちらを訪れる事にしました。

 釧路駅に停車中の18:19発・釧網本線・網走行・普通
4744Dです。車両はキハ54形の単行列車でした。
【北海道・釧路駅】
 キハ54形は、国鉄分割民営化に先立ち、経営が困難
と考えられた地方線区用に製造されたコストを抑えた車
両のひとつです。そのため、台車や変速機は廃車車両の
物を流用しているそうです。
【北海道・釧路駅】
 キハ54の車内です。座席は、何と簡易リクライニン
グ・シートでした。この車両は座席換装車であり基本的
にはセミクロス・シートなんだそうです。
【釧網本線・網走行・普通4744D車内】

 定刻の18:19、普通4744Dは乗車率20%程度で釧路から発車しました。釧路と網走を結ぶ釧網本線
は、本線と名は付いていますが全線を通して運行される列車は日に快速『しれとこ』が1往復に普通
列車が3往復のみで、その他、上り下りで10本に満たない区間列車がありますが、ほとんどローカ
ル線の並みの運行本数です。

 釧路を出た列車は東釧路まで根室本線を走ります。7分で東釧路に到着。同駅から釧網本線に入り
遠矢に停車して釧路から21分で釧路湿原駅に着きました。

 釧路湿原は期間営業駅であり5月1日から11月30日まで全列車が停まります。もっとも、時間
はすでに18:40、すでに日も傾いており、今から湿原を見に行こうなどと考える人は、まずおらんで
しょうな。

 車内の乗客から奇異な目で見られるのを覚悟の上で立ち上がると、驚いた事に私の前に高校生ぐら
いの兄ィちゃんが立ち上がって前の降車口に向かいました。

 高校生らしき兄ィちゃんは何と定期券を持っており、後ろの私に向かって「何だあんたは?」と言
わんがばかりの一瞥をくれると降りて行きました。そりゃこっちのセリフやがな。

 釧路湿原駅です。ログ・ハウス風の凝った駅舎があり
ますが、中には待合室しか無くて窓口も券売機もありま
せん。
【北海道・釧路湿原駅】

 駅前には舗装すらされていない広場があるだけで民家を含めて建物は一切無く、列車が行ってしま
うと、水が流れる音と鳥の囀りしか聞こえませんでした。何処かでカッコウが鳴いています。

 例の兄ィちゃんは、駅を出ると駅前の一本道をすたすたと歩いて行きました。周りを見ても視界の
範囲内には家はありません。いったい何処へ行くんやろ?

 釧路湿原の駅前です。ご覧の通り何もありません。一
緒に降りた兄ィちゃんは、正面やや右手の道を歩いて行
きました。
【北海道・釧路湿原駅】
 上の画像から右手を見ると、細岡展望台へと通じる階
段と案内看板がありました。
【北海道・釧路湿原駅】

 日も暮れかけているのでさっさと展望台に上がりましょう。私は急な階段を上りました。展望台ま
では400メートルくらいでしょうか?

 ひと気がまったくなく、脇の森から何か出て来そうな山道を歩くこと10分程度で細岡展望台に着
きました。

 眼前に広がる広大な釧路湿原。まさに息を飲む絶景で
した。
【北海道・釧路・細岡展望台】

 目の前に広がる湿原は広すぎて視界に収まらず、左右に首を巡らさなければなりませんでした。ま
さに雄大と言う言葉しか思いつかない眺めでした。いやぁ来て良かった・・・。

 誰もいない展望台からしばし湿原に見とれたあと、私は駅へ向かいました。帰りは往路とは違うル
ートを通ってみましょう。

 展望台より麓側にある「細岡ビジターズ・ラウンジ」
です。案内看板によるとインフォメーション、喫茶コー
ナー、休憩コーナー、展示コーナーなどがあり年中無休
となっていましたが、すでに営業時間は終わっているの
かひと気はありませんでした。
【北海道・釧路・細岡展望台】
 細岡展望台の駐車場です。もちろん車は一台も止まっ
ていませんでした。果たして、日中でもここを訪れる人
はいるのだろうか?
【北海道・釧路・細岡展望台】

 ラウンジの前の舗装道路を下り、その先の二股を左に曲がると、その先に踏切があり、その向こう
側に民宿「のーむ」があり車が数台止まっていました。

 例の兄ィちゃんは、ここの住人だったのでしょう。しかし、ここ周辺の道路は幹線ルートから外れ
ていて、展望台を訪れる人々以外は、まず来ないと思われます。果たして商売が成り立つんかいな?

 そんな事を考えつつ、私は駅に向かいました。釧路へ戻る列車の時間には、まだ早いのですが、時
間を潰そうにもここら辺には街灯すらなく、暗くなるまで展望台にいるわけにも行きません。

 それに周囲には「のーむ」以外には森しか無くて見る物もなく、結局、駅に戻るしか選択肢はあり
ませんでした。

 駅舎に戻ってはみたものの電気は消されており、唯一
の明かりは駅舎内の飲料水自販機のみでした。
【北海道・釧路湿原駅】
 待合室のテーブルには駅ノートがたくさん置かれてい
ました。訪れる人は、けっこういるようですな。
【北海道・釧路湿原駅】
 何か飲もうかと自販機を覗いて見ると、「オロフレ山
渓水」なるミネラル・ウォーターがありました。北海道
限定品か?
【北海道・釧路湿原駅】

 窓から外を見ると文字通り真っ暗で、とても外に出る気にはなれませんでした。ここら辺りは夜に
なると野生動物が徘徊しているのではないでしょうか?

 仕方が無いので薄暗い駅舎内をあちこち観察していると、時々、駅舎の裏手で得体の知れない物音
が聞こえます。

 旅行記において少なからず身の危険を感じたのは、後の旅行記で訪れた飯田線の小和田駅と、ここ
ぐらいです。熊でも出なきゃいいが・・・。

 ひとりきりの心細さに耐えながら、じりじりと列車を待っていると、ようやく19:48発の釧路行の
ライトが見えて来ました。列車が来るのがこれほど嬉しかったのは、後にも先にもこの時だけです。

 釧路湿原駅に到着する釧路行・普通4739Dです。こん
な時間にホームに立つ私を見て、運転士は、さぞかし訝
しんだ事でしょうな。
【北海道・釧路湿原駅】

 車両はキハ40形のようですが、乗り込めた事にホっとして、席に着くと車内をさっと見渡しただ
けで、それ以上列車の観察はしませんでした。1両目の乗客は20人ほどで、そのうち半分が高校生
でした。

 釧路湿原駅は無人駅なので乗車時に整理券を取りまし
た。釧路で精算する事になります。
【釧網本線・釧路行・普通4739D車内】

 次の遠矢で高校生達は降りて行きました。釧路湿原駅周辺は何もありませんが、ここはもう町中な
のです。

 その次の東釧路に着く前に、根室方面に乗り換える人は車内で精算をするようにとの案内がありま
した。何でだろう?

 20:06に釧路に帰着。降りてから改めて列車を見てみると、何とキハ40形2両にキハ54の3両
編成でした。

 さてと、お次は札幌へと戻る夜行特急『まりも』に乗りますが、待ち時間が3時間近くあるので、
まずは夕食を食べ、それから時間まで釧路の町を散策しましょう。

 何を食べようかと駅舎の中を探してみましたが、もはや『ミスター・ドーナッツ』以外の店は閉ま
っており、駅周辺にも、めぼしい店はありません。結局、得意のコンビニ弁当で済ませる羽目になり
ました。

 夕食を済ませた私は、とりあえずガイドブックにある港文館を見るべく駅前の広い道を南へ向かっ
て歩き始めました。

 1キロほど歩いて釧路川に架かる幣舞橋を渡って右に曲がってすぐの川沿いに目指す港文館があり
ました。

 港文館です。ただし、この建物は旧港文館を再現して
1993年に建てられた大町地区の港湾休憩所であり、中に
は休憩スペースと釧路港湾資料が展示されています。旧
港文館は、1908年(明治41年)に建てられた旧釧路新
聞社の社屋であり、歌人・石川啄木もここで記者として
活躍したそうです。その後、1942年(昭和17年)に北
海道新聞社釧路支社となったのち、2年間、北陽高校仮
校舎と使われてから取り壊されてしまったそうです。
【北海道・釧路市】

 港文館は闇夜にライトアップされていましたが開館時間は18時までであり中に入る事は出来ませ
んでした。

 港文館の釧路川を挟んで対岸には、釧路フィッシャー
マンズワーフの巨大な建物が鮮やかに輝いていました。
同施設内には、市場や飲食店、衣料品店、雑貨店、郵便
局、ハロー・ワーク、釧路市の保険福祉部、フィットネ
ス・センター、検診センター、バス・ターミナルなどが
入っています。
【北海道・釧路市】

 フィッシャーマンズワーフを見たあと、少し市街地をウロつきましたが街中には見るべき所もなく
21時半頃には駅に戻りました。

 その後は、『まりも』の発車時間まで駅の待合室で過ごしました。『まりも』の乗車については、
また次回と言うことで・・・。

 第8部につづく・・・。


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